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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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名匠、左甚五郎が作った…

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 名匠、左甚五郎(ひだりじんごろう)が作った木彫りのネズミが動くとの評判で繁盛する宿屋。ねたんだ向かいの宿が地元職人にトラを彫らせる。トラににらまれたネズミはおびえたように動かなくなった。落語「ねずみ」である▲話を聞いて甚五郎が来て見ると、何とも不出来なトラである。甚五郎に「なんであんな出来損ないにおびえるのか」と聞かれたネズミ、「あれトラなの? ネコかと思った」……落語、講談、浪曲で庶民の人気を集めた甚五郎だった▲日光東照宮の眠り猫など甚五郎作と伝えられる建築装飾は全国100カ所近い建物にある。だがその年代は室町時代末から江戸後期まで300年間近くに及ぶ。この伝説的な名前は何人もの達人たちの仕事に支えられていたのである▲この列島の歴史の始まりから無名の職人や地域の共同作業によって受け継がれてきた日本の木造建築の技術である。その「伝統建築工匠の技」がユネスコの無形文化遺産に登録される。能楽や和食などに続く国内22件目の登録という▲対象の17分野は木工や左官、屋根の瓦ぶきやかやぶき、建具や畳作り、外観や内装の装飾、漆塗りなどなど。なかには職人の高齢化や後継者不足が技術の継承を脅かしている分野もあり、すべてが国の「選定保存技術」となっている▲ユニークな伝統技術こそが文化の垣根を越えて「クール」と映る今日である。どうか文化遺産登録が若い世代の関心を引きつけてほしい。むろん海を越えて来て技を極める「甚五郎」が現れるのも歓迎だ。

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