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(集英社クリエイティブ・1980円)
報じられぬ不都合な事実
年が明ければ、東日本大震災と福島原発事故から十年である。コロナとオリンピックの間で落ち着かないが、それでも3・11を忘れるわけにはいかない。メディアは福島関連の映像であふれ、書店には関連本がうずたかく積まれることだろう。
福島については多くの情報に接した気でいたが、この本を開いてみると、知らないことばかりだった。著者は朝日新聞記者として二〇一七年秋に福島県内に着任し、一九年五月から南相馬支局に勤務した。それから約一年の間、復興の光の当たらない土地で生きる人々を取材し続けた。新聞記者にしかできないことがある。テレビカメラはその場にいなかったのだから、その時そこにいた人々に話を聞き、文字にすることでしか伝えられないことがある。
《白地(しろじ)》と地元で呼ばれる土地がある。原発事故により放射線量が高く、居住できない「帰還困難区域」の中で、政府は「特定復興再生拠点区域」と定めた場所の除染を優先的に進め、住民の帰還を促してきた。しかし、実際には帰還困難区域の大部分はこの区域には含まれない。生い茂る草の「海」の緑は、置き去りにされた白い乗用車を飲み込んでいく。人間が自然をてなずけることを放棄した時、風景はこんなにも変貌するも…
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