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精神科病床で入院患者の手足などをベッドにくくりつける身体拘束が減らない。昨年6月末時点で、全国で1万人を超えている。
心身への悪影響や人権擁護の観点から見過ごせない事態だ。
精神科病院での身体拘束は、精神保健福祉法で指定医の判断に基づき、やむを得ない場合に限られている。患者が自分や他人を傷つけるおそれがある時などだ。
一般病院では法令による規定はなく、医師らの判断で安全を名目に行われることが多いという。
一時的に最低限の身体拘束が必要なケースはある。しかし、患者の自由を奪い、強いストレスを与えて心に傷を負わせることがある。死亡事故も起きている。
厚生労働省の調査によると、数千人から1万人未満で推移していた身体拘束は2013年に1万人を超え、高止まりしている。昨年は1万875人に上った。ケアが困難な高齢の認知症患者の増加などが影響しているとみられる。
背景には病院の人員不足がある。旧厚生省が1958年に設けた「精神科特例」の基準で、精神科の医師数は一般病棟の3分の1、看護師・准看護師は3分の2でよいとされている。少人数では一人一人の患者に対応しにくいため、拘束を多用する傾向がある。
人権に対する意識が低い病院も少なくない。患者が大きな声を出したり、転倒のおそれがあったりするだけで安易に拘束するケースもあるという。
一方、拘束に至った原因を分析し、減らすよう努めて成果を上げている病院もある。精神科特例を見直し、職員の配置をできるだけ手厚くすることが必要だ。
閉鎖的な病院では外部の目が届きにくく、人権を侵害する事例が起きやすい。
NPO法人「大阪精神医療人権センター」はボランティアを養成し、患者と面会するなどして相談に応じる活動を続けている。行政はこうした活動を支援し、各地に広げてほしい。
そもそも精神科の入院患者は約27万人に上り、他の先進国と比べて突出して多い。入院期間も極めて長い。
患者の人権を守るためにも、政府は入院患者を減らし、地域で生活できる政策を進めるべきだ。