メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

見えない壁、越えられる? 障害の有無問わず楽しめるクライミング 記者も体験

ナビゲーター(左)からの情報を基に壁を登る視覚障害者の男性=横浜市戸塚区で2020年11月16日午後7時55分、村上正撮影

[PR]

 東京オリンピックで新競技に採用されたスポーツクライミング。大人から子どもまで幅広い世代に親しまれる中、ちょっと変わったイベントが人気を呼んでいる。背後からの情報を頼りにホールド(突起物)を探し、壁をよじ登る。コンセプトは「見えない壁だって、越えられる」。その魅力とは?

 ある月曜の夜。JR戸塚駅(横浜市)から歩いて5分ほどのクライミングジムに、白杖(はくじょう)を手にした人や、盲導犬を連れた人たちが集まり始めていた。

 十数人の参加者は、視覚障害者と健常者が入り交じる三つのグループに分かれる。視覚障害のある参加者が登る場合は、後方からナビゲーターと呼ばれる人が指示を送る。

 「右手から(時計の)2時、遠め、がば(っと持てるホールド)」。ナビゲーターが次のホールドについての情報を「方向、距離、形」の順で分かりやすく伝える。

 情報を基に参加者は壁を伝い、手をぐぐっと伸ばすも、「行きすぎ。もう少し手前」と微調整の声が飛ぶ。改めてホールドを探すと、あっという間に高さ約5メートル、傾斜90度もある壁を登り切った。クライミング歴3年で、ホールドをつかむ際に親指の爪しか見えないという男性(52)は「イベントを知った時はこんなことができるのかと驚きました。今ではいろんな課題にチャレンジしたいと思い、すっかりとりこになっています」と汗を拭う。

 記者もナビゲーターを務めた。ただ、見ているより何倍も難しい。難易度によって使用できるホールドは決められており、ゴールまでの順路を理解していないと適切な指示は出せない。ナビゲーターが迷っていると、壁を登る人の動きは止まってしまう。

 「真上だから12時で、近めで丸い形の……」。壁を見渡し、しどろもどろに。なんとかゴールに導くことができると、一緒に登ったような達成感を味わうことができた。

「多様性への理解を促進し、日本の文化として根付かせたい」とクライミングイベントへの思いを語る小林幸一郎さん=東京都内で2020年11月19日午前11時4分、村上正撮影

 「ここでは障害に関係なく、みんなが一緒になって楽しめるんですよ」。イベントを主催する小林幸一郎さん(52)はゆっくりと壁を下り、そう話した。パラクライミングの国内第一人者で、世界選手権4連覇中の実力を持つ。

 小林さんは28歳の時に網膜色素変性症と診断され、医師からは「将来、失明する」と告げられた。徐々に視力が低下していったが、10年以上続けていたクライミングは「やめる理由がなかった」と、仲間の協力を得ながら続けてきた。

 2005年に障害者クライミングの普及を目指すNPO法人「モンキーマジック」を設立。12年から交流型のイベントを始めた。目が見えなくなったり、耳が聞こえなくなったりしても自分の中で壁を作らず、「挑戦する気持ちを持ち続けてほしい」という思いを込める。

 視覚や聴覚、身体に障害を持つ人たちだけでなく、ナビゲーターとしての面白さを知った健常者もイベントの常連になっている。東京・高田馬場で開催していたイベントは昨年11月で計100回を迎えた。

横浜市で開催している交流型のクライミングイベント=横浜市戸塚区で2020年9月(モンキーマジック提供)

 その輪は全国に広がりつつある。NPOと関わりを持ったさまざまな人たちが中心となって企画し、定期的に北海道から九州までの16都市でイベントが行われている。19年の参加者は全国で2000人を超えた。各地でノウハウを伝えている小林さんは「交流型イベントは多様性の理解に大きく貢献できる。日本の文化として根付かせていくことを思い描いてこれまで続けてきた。47都道府県に広げていきたく、興味のある地域の人はぜひ声を掛けてほしい」と話す。

 イベントの参加申し込みはモンキーマジック(https://www.monkeymagic.or.jp/)まで。【村上正】

村上正

毎日新聞東京本社運動部。1984年、神戸市生まれ。2007年入社。舞鶴支局、神戸支局を経て、大阪本社社会部では大阪府警を担当。17年4月から現職。競技は水泳やサーフィンを担当。東京パラリンピックでは取材班キャップ。16年リオデジャネイロ五輪を取材した感動から、長女に「リオ」と命名した。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 共通テスト、マスクから鼻出して「失格」 監督者の注意に従わず

  2. 感染症と闘う 新型コロナ/6 マスク着用に一定の効果

  3. 「その気になればできる」 国産長射程ミサイルに込められた「隠れた狙い」とは

  4. お年玉付き年賀はがきの当選番号決まる 賞品引き換えは7月20日まで

  5. 横浜から鳥取までタクシー代23万円不払い 詐欺容疑で逮捕 鳥取県警

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです