連載

社史に人あり

関西には数百年の歴史を誇る企業があまたあります。商いの信念に支えられた企業の歴史、礎を築いた人物を中心に紹介。

連載一覧

社史に人あり

象印マホービン/19 「象印」から「ZOJIRUSHI」=広岩近広

  • はてなブックマーク
  • メール
  • 印刷
CI戦略を主導した社長の市川重幸氏=象印マホービン提供
CI戦略を主導した社長の市川重幸氏=象印マホービン提供

 <象印商品から象が消えた>と、象印マホービンの社史は書き起こしている。CI(コーポレートアイデンティティー)の導入によって新しいロゴマークを、「象印」から「ZOJIRUSHI」に切り替えた。1986(昭和61)年6月に開いた新製品発表会に訪れた小売店や代理店そして報道関係者らは、<一瞬目をうたがった>という。見なれた象のマークは、ガラス魔法瓶に残っているだけで、他のすべての商品から消えたのである。

 象印マホービンのシンボルであり、広く認知されていた象のマークをあえて消したのは、社長の市川重幸が2年前に行ったCI宣言に始まる。魔法瓶の専門メーカーに始まり、家電商品からリビング用品へとアイテムを広げて、すでに生活文化用品総合メーカーに飛躍していた。<ここにおいて社名、マークをはじめ企業イメージを総点検し、新しい時代に向かって進む象印のあるべき姿、目標を明示し、新しい道をつくりださなければならない。実は、こうした思いをいちばん強くもっていたのは市川重幸社長自身であった>(「社史」)

 社長によるCI宣言で、重幸は四つの目標を示した。先進性、技術力、ファッション性、国際性であり、社長自らCI委員長に就いた。象のマークをどうするか、廃止に反対する社員も少なくなかった。重幸にしても人一倍の愛着を持つ象のマークだから、<夜、眠れないこともしょっちゅうありましたよ>と振り返っている。重幸の結論を社史から引きたい。

 <象のマークは愛らしいとか、親しみがあるとかで、長年、会社の顔としてやってきました。しかし、象のマークがついているから売れる、という時代ではなくなったのです。真に商品の価値で勝負する時代になってきたのです>

 CIの断行であった。だが重幸は、象印のルーツであるガラス魔法瓶だけには、このロゴマークを残した。<ガラス魔法瓶は、これ以上伸びる商品ではない。これから伸びる分野には、象のマークは使わない。だが、一つの愛着とCIの逆効果を想定して、限られた商品にだけ象は生き伸びたのである>(社史)

 新しい時代を見すえて、積極果敢に挑戦してきた重幸の決断は評価された。読売新聞経済部CI取材班著「CI戦略は何を、どう変える」(ダイヤモンド社)は、次のように記している。

 <CIを漢方薬にたとえる人が多い。即効性はないが、じんわりと効いてくるという意味だ。なかには、業績が悪くなった、だからCIで社内改革をと、カンフル剤のように導入する企業もあるが、体力が衰えているだけに副作用も強い。だから元気なうちに予防医学としてCIを導入するのが理想的といわれる。象印マホービンは、まさにその代表的例だといえる>

「まほうびん記念館」に展示された製品群は、生活文化用品総合メーカーへの歩みをたどっている=象印マホービン提供
「まほうびん記念館」に展示された製品群は、生活文化用品総合メーカーへの歩みをたどっている=象印マホービン提供

 再び、象印マホービンの社史から引きたい。

 <CI活動は象印からZOJIRUSHIへと、企業イメージの転換はもとより、社内の空気も新生をめざして活性化し、生き生きとした力がみなぎってきた。CIが会社幹部だけの意識改革ではなく、新入社員も含めて全社員の取り組むテーマであることがしだいに浸透してきた>

 ただし社名の「象印マホービン」は、リスクを考えて残している。社史に人あり――市川重幸は、決断の人だが、深慮の人でもあった。

(敬称略。構成と引用は象印マホービンの社史による。象印マホービン編は今回で終わり、次回の1月9日から竹中工務店編を掲載予定)

あわせて読みたい

注目の特集