GoTo、五輪開催は「悪魔の戦略」 命の選別につながる 野口悠紀雄さんが考えるコロナ社会
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痛憤、いや悲憤である。経済学者の野口悠紀雄さん(80)。コロナ禍のこの1年、国民を守るべき日本政府の一連の新型コロナウイルス対策に対して、である。果ては「この国の政府や社会は、もはや『命の選別』に手を染めつつあるのか」とも漏らすのだ。どういうことか。【吉井理記/統合デジタル取材センター】
「哲学」なき政府の対応
――この1年の政府の対応をどう評価していますか?
◆一言で言うと、「哲学」がない。日本として、何を最重要視し、そのために何をしていくのか。そもそもの方向性が今もってよく分からない。私は恐怖すら感じます。
――と言いますと?
◆例えば今年3月、ドイツのメルケル首相は、「すべての人の命に救うべき価値がある」と訴え、国民に他人との接触を極力避けることを呼びかけました。経済活動ではなく、すべての国民の命を救うことをまず最優先する、という哲学です。一方、トランプ米大統領は「風邪のようなもの」といった発言を繰り返し、マスクの着用や経済活動の自粛には否定的な見解を繰り返しました。今年2月には「暖かくなれば(新型コロナウイルスは)消えてなくなる」とも発言しています。私は賛同しませんが、これはこれで一つの「哲学」と言えます。ですが、安倍晋三前首相、菅義偉首相らから、「哲学」を感じる発信はなされていません。一体、政府は何が最善と考え、そのために国民はどうすべきなのかが見えないんです。
定額給付金は必要だったか
――なるほど。しかし、例えば国民1人に一律10万円を配る特別定額給付金や、一時中断した「GoTo」事業などで、「経済を支える」という意思を示していた、とは思いますが……。
◆例えばその定額給付金です。本当に意味のある政策だったか、必要な政策だったかというと、私は疑問があります。
――なぜでしょう。もともと「家計への支援」(総務省ホームページ)で始められたものですが……。
◆「コロナで収入、所得が大きく落ち込んでいる」というたぐいの報道が少なくありませんが、実はサラリーマンを中心とする勤労者世帯の収入は、コロナ禍以後もさほど減っていないのです。総務省の「家計調査」でも、これは明らかです。サラリーマンを中心とする勤労者世帯で見ると、4月の緊急事態宣言後、世帯主の収入は前年同月比でマイナス続きですが、その減少率は平均して1%台です。減ってはいますが、金額で言えば月1万円程度です。
――確かに家計調査によれは、配偶者収入などを加えた経常収入、あるいは臨時収入なども加えた実収入で見ると、ほぼ前年同月比ではプラスで推移していますね。金額でも、昨年4~10月の世帯主収入の平均は42万4447円(ボーナスを含む)に対し、今年は41万8951円。月あたり約6000円の減少です。
◆減ってはいるが、暮らしに困る数字ではありません。つまり、必要としない人にまでも13兆円という空前の規模で、給付金事業が行われたわけです。本当に必要な政策であったのか、検証が不可欠です。
「強者」優遇の「GoTo」の矛盾
――しかし、暮らしに追い詰められている人はたくさんいます。
◆その通りです。大企業の正社員や公務員は、コロナ禍でもほとんど収入に影響を受けていない。問題は零細企業や自営業、非正規雇用やフリーランスの人たちです。
――「緊急事態宣言が出された4~6月期が景気の底」という見解もあります。これから回復基調に入るのでは。
◆「法人企業統計」を見ると、全体(全産業、全規模)の売上高は、4~6月期の前年同期比17・7%減から、7~9月期11・5%減と持ち直しています。しかし、零細企業(資本金1000~2000万円未満)に限ると、…
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