ゲノム編集食品、日本でも流通へ 生まれる新食材、人為的改変に懸念も

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ゲノム編集技術を使い開発したトマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」=サナテックシード社提供
ゲノム編集技術を使い開発したトマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」=サナテックシード社提供

 遺伝子を効率よく改変できるゲノム編集技術で開発された食品が、2022年にも国内で流通する見通しだ。農畜産業分野で研究開発が進むが、食品にこの技術で開発したことを表示する義務がないことなどに懸念の声もある。ゲノム編集食品は今後、食卓に定着するのだろうか。

国内で相次ぐゲノム編集食品の開発

 「先端技術を使って、人の役に立つ食べ物がようやくできた」

 ゲノム編集技術で品種改良したトマトの販売流通を、厚生労働省に届け出て受理された12月11日、筑波大発ベンチャー企業「サナテックシード」(東京都港区)の最高技術責任者で、同大教授の江面浩氏は晴れやかな表情で話した。

 サ社が筑波大と共同で開発したトマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」は、血圧を下げたり、ストレスを緩和したりする効果のあるアミノ酸の一種「ガンマアミノ酪酸(GABA)」を多く含むようにしたものだ。改良前の実と比べると5~6倍多いという。

 ゲノム編集とは、遺伝子の特定の部位を切断して機能を失わせたり、外来の遺伝子を組み入れて新たな機能を持たせたりする技術だ。普通のトマトにもGABAを合成する能力はあるが、一方で、GABAを合成する酵素の働きを阻害する遺伝子もある。サ社などは、ゲノム編集技術の一つ「クリスパー・キャス9」という手法を使ってこの遺伝子を壊し、GABAがたくさん作られるようにした。

 サ社によると、まず2021年5~6月ごろ、家庭菜園向けに限定して希望者に苗を無償提供する。生産者に対しては21年7~8月に種の販売を開始し、トマトが店頭に並ぶのは22年1~2月ごろになるという。販売する苗や実には、ゲノム編集で改良し、厚労省に届け出済みであることを示すマークを付ける。江面教授は「今後は、トマトの他品種や他の野菜などでの改良を目指したい。複数の優れた性質を持つ作物を作ることもゲノム編集では可能だ」と強調した。

 従来の品種改良は、必要な性質を持つ品種同士の交配の他、高温などの厳しい環境にさらしたり、放射線照射や化学薬剤処理をしたりして人為的に突然変異を起こさせていた。一方、ゲノム編集は、目的に合わせて狙った遺伝子を効率的に改変でき、従来技術では10年程度かかる品種改良が数年でできるようになった。特に12年に登場したクリスパー・キャス9はそれまでの手法より扱いやすく、医学や農業への応用が加速度的に進む。

 米国では、ゲノム編集で改良した大豆から製造した大豆油がすでに流通している。日本国内でもトマト以外に商品化を目指した品種改良が進む。

 木下政人・京都大助教(魚類発生工学)らは、マダイの筋肉の成長を抑制する遺伝子を制御し、餌を増やさずに通常よりも1・2倍ほど身を増大させることに成功した。堀内浩幸・広島大教授(動物生命科学)は、卵アレルギーがある人でも食べられる卵の開発を進める。他にも、毒を持つ芽が出るのを防ぐジャガイモや、攻撃性を抑え養殖しやすいサバなど、さまざまな農畜産物の品種で試みが広がっている。

 これらはサ社のトマトと同様に外から遺伝子を入れていないが、生物のゲノムを人為的に改変することへの懸念は根強い。ただし、…

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