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#最後の1年

新型コロナに揺れる学生スポーツ界。最高学年の選手は無念や戸惑いを抱きながら「最後の1年」を過ごしています。

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母への誓いを胸に集大成 問い直す「自らの役割」 早大ラグビー部の炎のタックラー

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日が暮れても練習への集中力を切らさない坪郷智輝=早大ラグビー部提供
日が暮れても練習への集中力を切らさない坪郷智輝=早大ラグビー部提供

 西日差す師走の上井草グラウンド(東京都杉並区)。青春の全てを投じた、この地とも別れの時が近づく。早稲田大ラグビー部のFW坪郷智輝(つぼごう・ともき、23歳)=法学部4年=は母への誓いを胸に初心者ながら伝統校の門をたたいた。以来、171センチの小柄な体で張り合ってきた。練習前、スパイクのひもを結ぶ手が止まる。「このまま試合に出られなかったら、4年間は無駄だったのだろうか」。迷いを吹っ切るかのようにグラウンドに駆け出す。

 2020年12月19日、東京・秩父宮ラグビー場で開かれた全国大学選手権準々決勝の慶応大戦。早大はラインアウトを制圧した。ボールを安定して確保して攻撃の起点とし、相手ボールも圧力をかけて奪った。29―14で勝利後、主将の丸尾崇真(たかまさ、21歳)=文化構想学部4年=は真っ先にスタンドにいる控えメンバーへの感謝を口にした。「4年生をはじめ(控えの)『Bチーム』が慶大を研究してくれたお陰で、いい防御ができた」

 早大は例年、対戦相手の研究に労力を割く。試合の映像から繰り返し、攻撃隊形や防御の穴などを解析する。重要な役割を果たすのがBチームだ。対戦相手の全てを頭に入れ、対戦相手になりきり、レギュラー陣の練習相手を務める。

 特にラインアウトは幾つもの細かい駆け引きがあり、事前にBチームがどこまで緻密に対戦相手をコピーできるかが試合を大きく左右する。坪郷も「仮想慶大」の一員として力を尽くした。「ラインアウトも他のプレーも僕らが研究した通りだった。『慶大より強く』を合言葉にレギュラーにプレッシャーをかけて練習してきた。だから本物の慶大を『大したことがない』と思えたのではないか」。その言葉に勝利を側面支援した自負がにじむ。

受験失敗に母の死 ショックを支えた父の背中

 ただ――。本音ではもちろん「試合に出たい」。

 坪郷は埼玉県川口市に生まれた。小学4年で野球を始め、県内の川越東高に進んでも野球部に所属した。ラグビーとの出合いは、野球に明け暮れていた高1の時だった。早大ラグビー部でバックスとしてレギュラーをつかんでいた兄の勇輝さん(29)の試合の応援で、当時の国立競技場のスタンドに駆けつけた。肉体と肉体が激しくぶつかり合う音が客席まで届いた。その迫力に息をのみ、夢中でボールを追った。「早大に行って、ラグビーをやる」。そう心に決めた。

 だが大学受験を控えた16年の年明け、夢中でスポーツに打ち込む姿を温かく見守ってくれていた母ミユキさんの体を病魔が襲っていた。数年前にがんが見つかり、入退院を繰り返してきたが、腫瘍は全身に転移し、寝たきりの状態になっていた。

 そんな中、坪郷は早大の受験に失敗した。浪人して再挑戦することを決意し、その報告で病院に向かった。口を開くのもつらそうだった母は「残念だけど、また来年頑張ればいいよ」と精いっぱいの笑顔を見せてくれた。

 だがそれが最後の会話になった。帰り道、…

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