視覚障害者は「運を天に任せて」横断歩道を渡る 音響信号「99%」のカラクリ

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スピーカーから音を出して青信号を伝える音響式信号機=福岡市南区で2020年11月4日、田鍋公也撮影
スピーカーから音を出して青信号を伝える音響式信号機=福岡市南区で2020年11月4日、田鍋公也撮影

 音響式信号機の稼働が止められている横断歩道で視覚障害者は極めて危険な状況にさらされている。政府は、公共空間のバリアフリー化を東京オリンピック・パラリンピックのレガシー(遺産)と位置づけ、音響式信号機の設置が必要な横断歩道では既に数値目標の「99%」が設置済みとしている。しかし、警察当局へのアンケート調査や当事者の取材で浮かび上がったのは、視覚障害者が求める安全な歩行環境が整備されているとは言い難い現状だった。【田崎春菜】

ラッシュ避け早朝出勤、信号機は無音……突然の兄の死

 音が鳴らない横断歩道では、車の走行音や歩行者の靴音、親切な人の声かけが頼り。いずれもない場合は運を天に任せて渡る」。日本視覚障害者団体連合(日視連)の佐々木宗雅組織部長が視覚障害者の立場をこう表現した。

 2018年12月7日午前4時半ごろ、東京都豊島区駒込2の幹線道路で、通勤のため最寄りのJR山手線駒込駅に向かって横断歩道を渡っていた視覚障害者の栗原亨さん(当時64歳)がワゴン車にはねられ死亡した。現場の音響式信号機は午前8時~午後7時以外は音が止められていた。警視庁によると事故当時、歩行者信号は「赤」だった。

 「近隣住民の苦情で稼働時間が制限されていたようだ。現場は電車や車の方がよっぽどうるさいのに。つらい」。栗原さんの妹(63)は突然の兄の死を今も受け入れられないと話す。

 職場の同僚によると、現場近くで1人暮らしの栗原さんは電車を乗り継ぎ、千葉市の量子科学技術研究開発機構に出勤していた。駅構内では周りの利用客の流れを感じながら歩いていたが、ラッシュ時は人の流れが変則的になり、いつも戸惑っていた。ラッシュの時間帯を避けようと、事故の数カ月前から1時間以上早く出勤していたという。

 原子物理学が専門の栗原さんは大学院生の時に緑内障で重度の弱視になったが、職場ではパソコンに入力した文字を音声で読み上げるソフトなどを駆使し、先進的ながん放射線治療の普及に取り組んでいた。視覚障害者の支援活動にも熱心で欧州やイスラエルにも足を運んだ。上司の北川敦志さん(57)は「目が見えないことをできない理由にしたくないというプライドがある方だった」と惜しむ。

 視覚障害者が利用する病院近くでも音の出ない音響式信号機がある。福岡市南区の福岡赤十字病院前の交差点にある音響式信号機は終日稼働していない。福岡県警によると、07年3月の設置後、近くの入院病棟の患者らから「うるさい」と苦情があり、10年ほど前に止められたままだという。

 11月上旬、市視覚障害者福祉協会の視覚障害者3人が現地で危険性を確かめる様子を取材した。ガイドヘルパーが見守る中、横断した3人はいずれも歩行者信号が「青」になっても歩き出しが遅れ、2人は横断歩道の枠線から大きくはみ出してしまった。協会の登本弘志副会長は「音がないと最初の一歩を踏み出すのが怖い。青信号の長さも分からず焦った」と語った。県警からは後日、取材をきっかけに稼働再開が決まったと連絡が入った。

 重度の弱視のため音響式信号機がない横断歩道で車にはねられた経験がある東京都盲人福祉協会の市原寛一・常任理事は「事故に遭うとショックで外出できなくなる人も多い。信号の稼働制限は『昼間に歩け』と言われているようで心の自由まで制限されているようだ」と訴える。

  ◇バリアフリー化「99%」 警察庁発表の数字のカラクリ

 毎日新聞の調査では、…

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