「自己検閲」「今も差別的」 BLMに揺れた米映画界は今…

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ディズニーはアニメ「ダンボ」に登場するカラスたちと音楽が人種差別的なショーを連想させるとしている=Ⓒ2020 Disney
ディズニーはアニメ「ダンボ」に登場するカラスたちと音楽が人種差別的なショーを連想させるとしている=Ⓒ2020 Disney

 米国の映画界は2020年、人種差別問題に揺れた。名画「風と共に去りぬ」や、「ピーター・パン」などディズニーのアニメには釈明文が追加され、世界で広く報じられた。差別表現への批判は以前からあるが、米国では今、差別と芸術はどのように議論されているのか。米映画界の一線で活躍する専門家や日本の研究者に聞いた。【大野友嘉子/統合デジタル取材センター】

古典映画に批判、ディズニーも対応強化

 米中西部ミネソタ州ミネアポリスで20年5月、アフリカ系黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警官に拘束され、窒息死した事件に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大事だ)」デモが全米に広がった。

 米映画界は社会問題、特に差別に敏感だ。黒人男性の奴隷体験を描いた映画「それでも夜は明ける」の脚本などで知られるジョン・リドリー氏は、南北戦争時代の南部を舞台にした映画「風と共に去りぬ」(1939年)が奴隷制度の残酷さを軽視し、黒人を侮辱的に描いているとして、配信元のHBOマックスに配信を止めるよう求めた。同社は一時配信停止にした後、本編前に歴史的背景の解説を付ける形で配信を再開した。

 また、ウォルト・ディズニー・カンパニーは10月、BLMになぞらえたスローガン「Stories Matter(伝え方は大事だ)」を掲げ、視聴者への注意喚起を強化した。自社の動画配信サービス「ディズニー+(プラス)」でも、「ダンボ」(41年)や「ピーター・パン」(53年)などのアニメ作品に、<この作品には特定の人々や文化に否定的で不当な表現が含まれています。こうしたステレオタイプは当時も今も誤りです>との釈明文を付けた。

今も描かれ続ける「黒人像」

 一方、過去の作品に釈明文を付けるだけの対応には、ハリウッドで働く黒人クリエーターを中心に冷ややかな反応も起きた。

 カリフォルニア州在住の脚本家、ビアンカ・サムズさんがオンライン取材に応じた。黒人脚本家でつくる米西部脚本家組合(WGAW)の黒人脚本家委員会(CBW)副議長でもあるサムズさんは「そもそも、過去の映画で描かれた黒人像が、今もなお描かれ続けていることが最大かつ根源的な問題です」と述べ、業界の構造問題だと指摘する。

 WGAWの調査によると、19~20年にテレビ番組を製作した脚本家のうちの約65%、19年の映画製作では約80%が白人だった。15年のアカデミー賞で演技部門の候補者が全員白人だったことから、ネット交流サービス(SNS)上に「#OscarsSoWhite(白すぎるオスカー)」とのハッシュタグで批判が噴出したことも記憶に新しい。

 男女別では、19~20年のテレビ番組の脚本家の約56%、19年の映画の脚本家では約73%が男性だった。

 サムズさんは、かつて関わった番組の内容が人種差別的だと同僚に指摘した際、「今まで散々使われてきた表現なのに」と驚かれた経験があるという。「エンターテインメント業界の構成はいまだに白人男性中心で、彼らの視点で描かれた作品が量産され続けているのが現状です」と問題視する。

 フロイドさんの窒息死事件から約1カ月後、CBWは、黒人クリエーターの地位向上を求める公開書簡を発表。その中で、白人至上主義団体、クー・クラックス・クラン(KKK)の誕生を肯定的に描いた「国民の創生」(1915年)をこう批判した。

 <この作品は今でも最も優れた映画の一つとして認知され、ハリウッドを世界的なエンターテインメント業界に押し上げました。(それ以降)ハリウッドは、黒人を悪人として描くか、作品から完全に締め出すということを行ってきました>

 皮肉の利いた一文である。公開書簡は作品だけでなく、次のようにハリウッドの多様化を訴えた。<決まりきった作家を選ぶという慣行をやめなければなりません。白人だけを登用し続ければ、ハリウッドに存在する偏見と人種的不平等を拡散することになるでしょう>

 サムズさんは言う。…

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