メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

#自助といわれても

強度行動障害の長男 「社会から見下され、心が折れた」家族介護

リビングにある円いちゃぶ台。補修を繰り返しながらも、晋作さんのくつろげる場所になっている=東京都府中市で2020年11月20日午後2時0分、生野由佳撮影

 東京都府中市の税理士、金成祐行(かなり・ゆうこう)さん(54)の自宅を訪ねると、広い2階建ての住宅の4分の1ほどのスペースが、メゾネットタイプのワンルームマンションに改築されていた。ここは長男の晋作さん(24)のための部屋だ。晋作さんは全国に約8000人いる強度行動障害の当事者の1人。特別支援学校を卒業後、3カ所の福祉施設に通所したが、いずれも退所を余儀なくされた。パニックになると、暴れてしまうことがある。社会から排除され、「自助」に追い込まれた家族介護は凄絶(せいぜつ)だった。【生野由佳/統合デジタル取材センター】

 奇声を上げながら電子レンジを何度もたたき、食器を投げつけ、壁を蹴ってへこませる……。自室でパニックを起こした晋作さんの動画だ。金成さんが実態をあえて知ってほしいとフェイスブック(FB)の強度行動障害を考えるグループに投稿した。母親は体格差のある息子を制御しようとするがままならず、途方にくれる様子がうかがえる。

 晋作さんは身長177センチ、体重は90キロ超と大柄で、障害の重さを示す支援区分は最も重い「6」から2番目の「5」だ。

 強度行動障害とは、重度知的障害を伴う自閉症の当事者で、自傷・他害やパニック行動、こだわりが目立つ状態で判断することが多い。医学的診断ではなく行政用語だ。その特性があまり知られていないことから、パニック時にはトラブルが拡大することが多い。

ぐにゃりとゆがんだ風呂の天井

 金成さんが自宅を改築したのは約5年前。厚生労働省の手引に沿って、強度行動障害の当事者の「自分用のスペース確保」をするためと、パニックにより弟たちとの関係が悪化していたことが理由だ。玄関も別々にある。

 「本当は誰もが住みたくなるような、とってもおしゃれなスペースなんです」。そう金成さんが紹介するように1階にリビングとキッチン、お風呂があり、2階に学習机とベッド、電子ピアノがそろっている。

 「本当は」と説明するのは、晋作さんがパニックで物を投げたり、壊したりしてしまったためだ。ほぼすべての場所に補修テープが貼られ、壁が大きくへこんでいたり、破れていたりする。風呂の天井はぐにゃりとゆがんでいた。

 金成さん夫妻は「パニックになったら冷蔵庫だって、レンジだって、何でも投げてしまいますから。どれだけ買い替えたか分かりません」。金成さん夫妻は顔を見合わせる。記憶するだけでも、電子レンジは10台、シャワーのヘッドは5個、電子ピアノは3台、電磁調理器は1カ月で使えなくなり、割れたり壊れたりした食器は数知れないという。

思春期に表れやすい強度行動障害

 晋作さんは幼少期に自閉症と診断されている。知的な遅れはあったものの、穏やかな性格からか周囲とのトラブルはほとんどなかったという。小学校は養護学校(現・特別支援学校)に通ったが、通学も一人でできた。当時は近くの団地に暮らし、敷地内の広場で親は同伴せず、自由に遊んでいた。

 変化が見られるようになったのは特別支援学校に通う中学生の後半のころから。強度行動障害の症状は同じころ、思春期に表れやすいと言われている。

 「物を投げたり、人につばを吐いたりするのが主な症状でした。妻に任せっきりだったのもあり、あまり重大に考えていませんでした。誰かに手を出してしまう『他害』はなかったのですが……」と父祐行さん。

 卒業後、晋作さんの行動障害は次第に強くなる。「学校で良い子をいつも演じて我慢してしまっていたからかもしれません。そこに気づいてあげられなかった。その後、作業所や福祉施設に通所しましたが、いずれもトラブルで退所し、トラウマが重なったように感じています」

 強度行動障害に詳しい精神科医、樋端(といばな)佑樹さん(43)=信州大医学部子どものこころの発達医学講座特任助教=は、「突然こういった強度行動障害の状態になるわけではありません。多くは本人への人権侵害、自立を志向するけれども、それができない苦しさによって引き起こされていると考えられます」と説明する。

 樋端さんによると、当事者の多くは知的障害を伴う自閉症があり、感覚や興味が特異である一方、周囲の状況を適切に理解したり、言葉で表現したりすることが難しいという。生活の中で、視覚的支援や思いを訴えやすいツールを利用するなどし、本人の好む環境や活動を保障しつつ、必要なことは絞って伝える必要がある。そのような支援がなく、ただ多数派向けの環境への適応を強要されると強度行動障害のリスクが高まるという。

排除の歴史

 「障害者の子供を抱えた無理心中事件や家庭内での監禁事件のニュースを見ると決して人ごとではないと思います。社会から排除されて行き場をなくすと、それしか選択肢がなくなるのです」

 金成さんが振り返る。晋作さんは特別支援学校を卒業後、3カ所の福祉施設を退所している。

 「い…

この記事は有料記事です。

残り2022文字(全文4016文字)

生野由佳

兵庫県出身。2003年入社。福島支局、阪神支局、大阪社会部、2度目の阪神支局を経て2020年4月より統合デジタル取材センター。JR福知山線脱線事故や阪神大震災を中心に取材してきました。被害者支援や障害福祉分野に関心があります。趣味は銭湯巡り。

おすすめ記事
広告
毎日新聞のアカウント
ピックアップ
話題の記事

アクセスランキング

毎時01分更新

  1. 鼻出しマスク受験「眼鏡が曇るから」 釈放男性、トイレにこもった訳は

  2. 日本国内の感染者、4週間で27万人超に 米グーグルのAIが大幅増を予測

  3. 鼻出しマスクの受験生を逮捕 不退去の疑い 警視庁深川署

  4. 飛行機マスク拒否 大学職員「容疑と事実違う」 捜査車両でも着用しなかった理由

  5. テレ東・大江麻理子キャスターらマスク着用 「緊急事態宣言受け決断」

編集部のオススメ記事

のマークについて

今週のおすすめ
毎日新聞社は、東京2020大会のオフィシャルパートナーです