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常夏通信

その76 戦没者遺骨の戦後史(22) 所属部隊の配置が判明 「DNA鑑定の拡充になる」と確信

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硫黄島。左奥が大坂山地区=東京都小笠原村で2018年1月26日、本社機「希望」から須賀川理撮影
硫黄島。左奥が大坂山地区=東京都小笠原村で2018年1月26日、本社機「希望」から須賀川理撮影

 福岡県昭代村(現柳川市)から陸軍兵士として出征した近藤龍雄さんが、妻のハルノさんに宛てた手紙が残っている。「手紙を見て安心した。君が病気をしていないかと思っていたよ。元気でうれしかったよ。(中略)こう云(い)えばお前が笑うかしらないが、一日もお前のことを忘れたことはない」。別の手紙では「泰典も元気で大きくなっている事と思います。どうか大事に育てて下さい。僕が帰る頃は大きくなっている事でしょう。そんな事を夢見る事が有ります」

 泰典さんは長男。愛妻家で、子煩悩だった龍雄さんは、第二次世界大戦の激戦地・硫黄島で戦死した。龍雄さんのことを調べるうちに、私は思った。「これは国がDNA鑑定を拡充するきっかけになり得る。そうしなければならない」

本来は国がやるべきこと

 龍雄さんの所属部隊が硫黄島西部の大坂山地区に配置されていたことが分かった。そして、厚生労働省が同地区で200体の遺骨を収容していて、うち26体はDNA鑑定が可能であることも分かった。

 遺族の協力を得て、龍雄さんが硫黄島に渡るまでと、硫黄島で、どこにいたのかが分かっていく過程は、一年中「8月ジャーナリズム」=戦争報道をしている常夏記者こと私にとって、やりがいのある取材だった。しかし、一方で思った。「これ、本当ならば国が調べて遺族に伝えるべきことでしょ」

 第三者の新聞記者である私が把握できたのだから、国がその気になればもっと簡単に分かったはずだ。「大坂山に配属されていた部隊、兵士を洗い出して、遺族を探し出して『DNA鑑定が可能ですか』と伝えるべきだ。そうでなければ、何のために遺骨を保管しているのか。遺骨を集めて終わり、という姿勢だ。これでは無縁仏が増えていくだけだ」とも、私は思った。

やらない理由を探す厚労省

 前回(その75)書いたように、龍雄さんの孫の近藤恵美子さんが厚労省にDNA鑑定を依頼したところ、遺骨の身元特定につながる記名の遺品や埋葬記録がないことから断られた。しかし遺品・埋葬記録なしでも、沖縄の一部地域では鑑定を行っている。「条件は沖縄の一部地域と同じです。硫黄島のこのケースも、鑑定をすべきではないですか」。私は厚労省の担当者にそう話した。

 「部隊が最後まで、そこにいたかどうかは分かりません」。担当者はそう話した。確かにその通りだ。しかし、そうだとしても技術的に鑑定が可能な遺骨の鑑定を怠る理由にはならない。実際、沖縄の一部地域では行っているのだ。

戦術上の要所だった大坂山地区

 大坂山地区は、米軍が上陸した南海岸の北方およそ4キロにある。海軍の軽巡洋艦が搭載していた、イギリスアームスロング社製の「15センチ砲」が配置されていた。同砲は日本軍守備隊の中では最大の大砲だった。さらに龍雄さんが所属していた迫撃砲部隊も展開しており、上陸間際の米軍に多大な損害を与えたと思われる。また守備隊の最高指揮官だった栗林忠道陸軍中将は司令部を島の北端に置いており、大坂山地区はその司令部に向かって北上してくる米軍を抑える上で極めて重要な位置にあった。

 しかし1945年2月19日に上陸した米軍の侵攻が続き、3月1日に大坂山は占領された。この時点で守備隊の多数の兵士が戦死していただろう。ただ戦史によれば、生き残った兵士は北に転じたとされる。龍雄さんはどうだったか。龍雄さんの兵籍簿には「昭和20 3 17戦死」と書かれている。とすれば、厚労省の担当者が言うように、最期は大坂山地区にはいなかったかもしれず、だとすれば同地区で収容された遺骨の中には含まれていない。

戦死は「3月17日」?

 ただ、龍雄さんが「3月17日」に戦死したという記載には、何の根拠も書かれていない。「3月17日」は、栗林中将が最後の総攻撃を決行しようとした日だ。実際は米軍の迎撃態勢が堅く、実施は先延ばしとなったが、当局はそれを一つの目安として戦死の日を判断したのだろう。日本軍兵士だけで2万人以上が亡くなった戦場で、一人一人がいつ、どこで亡くなったかを正確に記録できるはずがない。実際、栗林中将が戦死した場所さえ特定できていないのだ。

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