毎日新聞
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新型コロナウイルスの感染拡大に世界中が揺れた1年が終わる。
国内では、7年8カ月に及んだ安倍晋三前政権が幕を閉じ、菅義偉政権に交代した。
しかし、新型コロナへの対応では、前政権と同じように菅政権も後手に回っている。
最近の報道各社の世論調査では菅内閣の支持率は、発足当初に比べて軒並み急落している。菅首相は就任3カ月余で、早くも苦しい状況を迎えている。
菅首相の強引な政治手法も目立った。
日本学術会議の会員候補のうち6人を首相が任命しなかった問題は、疑問が解消されないまま年を越す。
安倍氏が「体調の悪化」を理由に突然、辞任を表明したのは8月末だった。
ただし実際には、全国民への一律10万円給付の遅れなどコロナ対策が迷走し、行き詰まった末の退陣だったと言っていい。
ところが、安倍氏の後継を選ぶ自民党総裁選は、アベノミクスの功罪をはじめ安倍政治をきちんと総括することなく、政策論争は極めて乏しいものとなった。
大半の派閥が「勝ち馬に乗れ」とばかりに、「前政権の継承」を掲げる菅氏を早々と支持し、総裁選前から勝敗が決したことを忘れてはならない。そのツケが今、回っているのではないか。
菅首相の目玉政策である携帯電話料金の値下げやデジタル庁の創設は、確かに実現に向けて進んでいる。2050年に温室効果ガス排出を「実質ゼロ」にする目標を掲げた点も評価したい。
だが、そもそも菅首相が目指す社会とは何か。「自助、共助、公助、そして絆」と繰り返すだけで、具体像は今も示していない。
看過できないのは学術会議問題だ。なぜ6人の任命を拒んだのかという疑問の核心に、首相は依然として明確に答えていない。
6人は安倍前政権時代、安全保障法制などについて反対論や慎重論を唱えてきた学者たちだ。
任命しないのは、やはり政権にとって不都合だからだろう。そこに安倍氏と同様、異論を排除する姿勢が如実に表れている。
コロナ対策では、観光支援策の「GoToトラベル」を一時停止するかどうか、判断が遅れた。
停止を求める専門家の意見に、首相は耳を傾けてきたのか。自ら主導してきた政策だから、事業の継続にこだわったのではないか。
閣僚や官僚が首相にきちんと進言できているようには見えない。もはや組織上の深刻な問題だ。
前政権に引き続き、国会はないがしろにされた。
野党が再三、国会審議を求めたのに対し、首相や与党は応じなかった。これも異論封じである。
見えてきたのは、そうした政治手法の限界ではないだろうか。特にコロナ禍で必要なのは、専門家らの意見を謙虚に聞いて政策を柔軟に修正していく姿勢である。
「おごりの果て」と言うべきだろう。安倍氏の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭をめぐる政治資金規正法違反事件では、安倍氏の秘書が略式起訴された。
100回以上に上る国会での虚偽答弁も厳しく問われた。にもかかわらず、安倍氏の説明は到底、納得できるものではなかった。
自民党の河井案里参院議員と夫の克行衆院議員による大規模買収事件も発覚した。吉川貴盛元農相が大手鶏卵業者から現金を受け取ったとされる贈収賄疑惑は東京地検の捜査が続く。
衆院への小選挙区比例代表並立制導入を軸とした一連の政治改革は、1988年に表面化したリクルート事件が契機だった。
自民党の感覚は再びマヒしてしまったというほかない。「桜」事件で、秘書任せだったと何度も弁明する安倍氏の姿は、あの当時の自民党幹部と何ら変わらない。
各省の幹部人事を決める内閣人事局の設置も政治改革の一環だった。しかし、内閣が幹部人事を握った結果、官僚がものを言えなくなったと指摘されて久しい。それを権力掌握の武器にしてきたのが菅首相だ。
「制度に絶対のものはない。運用を誤れば、逆効果さえ生ずる恐れがある」
政治改革を推進した故・後藤田正晴元官房長官は、こう言い残している。菅首相らは、改めてこの言葉をかみしめるべきだろう。
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