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やまゆり園事件は終わったか?

障害者のロック、恋愛、子育てを語ろう 漫画家、愛本みずほさんと野沢和弘さん

「障害があるからってあきらめることはないよ」と励ます柚子の支援者・安西さん。Ⓒ愛本みずほ/講談社

 障害者自立支援法(現障害者総合支援法)が2006年に施行されて15年。2021年は障害者差別解消法の改正が国会で審議される見通しだ。知的障害のある人を取り巻く制度や暮らしは、どう変わっていくのか。軽度知的障害のある柚子の子育てをコミカルに描いた漫画「だいすき!! ゆずの子育て日記」(05~12年)の作者、愛本みずほさんと、漫画の監修も務め、福祉制度に詳しい野沢和弘・植草学園大副学長が語り合った。【まとめ・上東麻子/統合デジタル取材センター】

◇取材するうち「障害」の境目があやふやに…

 愛本 「だいすき!!」の企画は編集者から頂いたもので、私は全く障害者について知識がありませんでした。子どもの頃から障害のある人と触れ合ったことがなかった。ハードルが高く、最初は不安いっぱいでした。

 私が知っている知的障害者は、街中で急に大声で叫ぶなど分かりやすい人でした。軽度の人はイメージが湧かなかったので、福祉作業所を訪ねたり、子育て中のお母さんの話を聞かせてもらったりと1年ほど取材しました。

 野沢 「だいすき!!」の連載が始まった直後の06年に、障害者自立支援法が施行されました。日本の障害分野、特に知的障害、精神障害の施策が大きく変わった時期です。それまでは、家族介護が基本で、養育できない場合は施設へ預けるしかない時代でした。障害者の地域生活を支えるサービスの充実が図られ、街中で暮らす障害者が増えてきました。

 愛本 想像で書けないテーマです。障害について理解してほしいという面もありましたから、できるだけ勉強しました。その過程で、自分の中にある偏見にも気づいたので、読者にも感じてもらえたらと思いました。こういう人は身近にたくさんいるなあと。クラスにも1人はいた気がします。

 野沢 軽度障害者は、最近は認識されて障害者手帳をもらえるようになりましたが、昔は違いました。戦後は農業、自営業などの大家族が多く、その中で軽度の人もそれなりに仕事や役割がありました。その頃は福祉サービスもほとんどなかった。

 愛本 アシスタントにも、頼むとちゃんと背景などを描いてくれるけれど、言い方を変えると理解できない子がいました。でも、障害認定は受けてないし、普通に生活をしている。知れば知るほど、何が障害で、障害でないのか境目がどんどんあやふやになりました。

恋愛だって、子育てだって…

 野沢 自立支援法以降、障害福祉サービスの量は飛躍的に増えました。毎年予算は2桁伸び、この15年間で約4倍になりました。障害者虐待防止法、障害者差別解消法と障害者の権利を守る法律も整ってきました。

 50歳で入所施設を出て、60歳からバンド活動に参加している米田光晴さんと対談した時のことです。彼は、「施設から出た時、みんなに自由になったと言われたけれど、違ってた。だまされていた」と言うんです。理由を聞くと、「俺、施設から出ても障害者のままだった」「ステージで喝采を浴びる幸せを、なぜ今まで知らずに生きていたのか」と言うんです。

 障害サービスが増えて予算が増えても、彼らはずっと「見えないおり」に閉じ込められていた。そのおりから解放してくれたのが、大勢の客の視線と、ロックンロールのリズムだったのだと感じました。

 制度以前に地域で暮らしていた軽度知的障害者たちは、福祉サービスがないことで苦労もあったけれど、もっとリアルで生々しい、感動がある生活をしていたのかもしれない。それを福祉制度が閉じ込めてしまったのかもしれません。

 新聞も虐待の実態や制度が足りないという政府追及型の報道はしてきました。しかし、障害者がロックンロールをするとか、結婚や子育てをする話はなかなか書けませんでした。そんな時に、「だいすき!!」が出た意味は大きかったです。

 愛本 米田さんは、私もご一緒したことがありますが、成年後見人に「恋人を見つけてくれ」と言っていました(笑い)。障害がある人はこんなことはしないと勝手に決めつけている部分がありますが、きっかけがあれば変わっていくはずですよね。

 障害者のお見合いパーティーを取り上げた回も、「こういうことを教えないでくれ」と批判的な意見もありました。でも、障害のあるなしに関係なく、お前は恋愛するな、子どもを産むなと言われるのは、とても腹の立つことです。

差別をあっけらかんと乗り越えた

 野沢 日本には戦後の1948年、障害者に強制的に不妊手術をする旧優生保護法ができました。96年に「差別にあたる」として母体保護法に改定されてからも、「障害者を再生産するな」「障害者が結婚や子育てなんて」という考えはずっと続いています。

 旧優生保護法の被害者が国家賠償請求訴訟を起こしたことで19年、一時金支給法ができましたが、今も障害者を社会から隔離した所に封じ込め、存在そのものを否定しようという根深い差別が残っている。それをあの漫画は、あっけらかんと乗り越えた。障害者同士で結婚して子どもを産んでなんていう話、どのように世間は反応するのかと思ったが、すごく支持されました。

 愛本 親に障害があろうがなかろうが、せっかく生まれたら育てるしかない。障害のあるお父さん、お母さんを見てきて思うのは、普通の人と何も変わらないということです。

 一生懸命子育てしているし、支援者も一生懸命支援する。そんな親子に、お前たち存在したらいけないなんてことを、一体誰が言う権利があるのでしょうか。ニコニコ走り回る子どもをお母さんが追いかけて、お父さんが「うるさい」と言って、お母さんが「掃除機ぐらいかけてよ」とか言い合って……。どこの家庭でも一緒です。

 野沢 目の前にそうした人がいればそう思えますが、いないとタブー視したくなる。グループホームだって住民の反対運動がおきても、入居者の姿に毎日接していると、住民も受け入れていく。存在そのものに力があると思います。それとは遠いところにイデオロギーとか、優生保護法などの制度を推進してきた思想がある。

 愛本 当時、女子高生を取材していたのですが、その子は旧優生保護法がある時代に、知的障害のある親から生まれたんです。お母さん思いのとてもいいお嬢さんで、もし、この子のお母さんが不妊手術を受けさせられていたら、生まれなかった可能性がある。そう考えるとすごく怖かった。

 一人の人間を、この世に存在させないような法律があった。そういう子がたくさんいたんだと。あの法律が半世紀近く、しかも…

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残り3775文字(全文6421文字)

上東麻子

1996年毎日新聞入社。佐賀支局、西部本社、東京本社くらし医療部などをへて2020年から統合デジタル取材センター。障害福祉、精神医療、差別、性暴力、「境界」に関心がある。2018年度新聞協会賞を受賞したキャンペーン報道「旧優生保護法を問う」取材班。連載「やまゆり園事件は終わったか?~福祉を問う」で2020年貧困ジャーナリズム賞。共著に「強制不妊ーー旧優生保護法を問う」(毎日新聞出版)、「ルポ『命の選別』誰が弱者を切り捨てるのか?」(文藝春秋)。散歩とヨガ、ものづくりが好き。

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