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2021年を迎えた。希望を更新するようなムードが感じられないのは、新型コロナウイルスとの暗然とさせられる闘いの「第2章」を予感するためでもある。
コロナへの対応に完全な答えは見つかっていない。ワクチンに安堵(あんど)するのはまだ早計だろう。
そうした中、厄介な危機感が膨らんでいる。私たちの民主政治がコロナへの対応能力に欠けているのではないかという疑念だ。
民主政治は合意過程を重要視するが故に、意思決定に時間がかかるという欠点が指摘されてきた。それがコロナという容赦のない敵との闘いで顕在化した。
民主主義の旗手である米国で感染者が1900万人を超え、世界最悪となっていることが危機を象徴的にイメージさせる。
一方で、世界で最初に感染者が確認された中国は都市封鎖やIT(情報技術)を駆使した国民監視などの対策を、持ち前の強権政治により一気に進めた。感染拡大を早々に抑え込んでみせた。
危機強める「再封建化」
冷戦が終わり、自由と民主主義は市場経済とセットであるとの考えが広がった。生活を豊かにしようと思えば、中国でさえも民主主義に向かうと語られた。
だが、グローバル化の進展がコースを変えた。先進国では中間層以下の所得が伸び悩み、寛容さが失われ格差と分断が拡大した。
08年の世界金融危機以降、反グローバル主義とナショナリズムがうねりを増し、ポピュリスト政治家が幅を利かせた。
一人一人が相対的に平等であってはじめて、支え合って社会をつくろうという意識が保てる。それが、社会経済的な基盤を持つ中間層が没落し難しくなった。米国ではトランプ政権が誕生し、英国は欧州連合(EU)を離脱した。
困難な状況下でコロナが襲来したことが危機に拍車をかけた。
では、日本はどうだろう。社会の基本的な数値はよくない。
非正規労働者は1990年代以降大きく増え、雇用者に占める割合は4割に迫る。「同一労働同一賃金」のかけ声は聞かれるが、正社員との不合理な待遇格差の解消は進んでいない。コロナ禍で、雇用の調整弁としてしわ寄せを受けているのも非正規層だ。
東京と地方の差も開いている。男女格差は解決されず、女性政治家の割合は世界的に低いままだ。
東京大の宇野重規教授(政治哲学)は「日本では、どこに所属するかによって運命が大きく決定される『再封建化』といえる動きが強まっている。格差に対し、個人の力ではどうしようもないと思う感覚が支配的になっている。これが一番の危機だ」と語る。
そうした国民に対し、政治は対話の努力をしたのだろうか。
安倍晋三前首相の一斉休校は突然だった。一部の側近だけで準備は進められ、コロナ対策として科学的根拠は希薄だった。国民は政治に翻弄(ほんろう)されたとの意識を抱き、不信感を募らせた。
気づきを変革に生かす
説明に背を向ける政治を菅義偉首相が継いだ。感染拡大の中、官邸での記者会見は3回だけだ。
先の国会で目立った「答弁を控える」の言葉も信頼を構築する土壌を自ら破壊することに等しい。
立場の違う人にも寛容に対応し、合意を広げるのが民主政治の役割だ。その前提に立てば、言ってはならないNGワードであるのに、ためらいもなく乱発される状況に危機感を禁じ得ない。
ただ、民主政治に再生の芽がないわけではない。
米大統領選は1億5000万人を超える人が票を投じ、投票率が過去最高になった。それは選挙の結果以上に将来の可能性を示したと言えるのではないか。
カマラ・ハリス次期副大統領ら多様性に富んだ政治家群像を登場させたことも期待値を上げる。
日本では、コロナ下の自粛期間中、ネットや新聞、テレビを見て、この国の政治について国民が気づきを持つようになった。安倍政権末期に内閣支持率が低下したのも、菅内閣に変調が見られるのも気づきの表れと言えるだろう。
今年は衆院選が10月までにある。政治がどこまで傷んでいるのかを把握し、復元への道筋を示す機会となる。
民主政治は間違える。けれども、自分たちで修正できるのも民主政治のメリットだ。手間はかかっても、その難しさを乗り越えていく1年にしたい。