「へいわって…?」 激動の香港で日本の絵本が読まれている理由
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民主活動家の周庭さん(24)が禁錮刑を受け収監されるなど、中国政府による締めつけが続く香港で、日本の絵本「へいわって どんなこと?」が読まれ続けている。日中韓の3カ国で出版された後、2019年12月に新たに「香港版」が刊行され、現地の出版賞も受賞した。絵本が出来上がるまでの道のり、翻訳に込めた編集者たちの思いとは――。【五味香織/統合デジタル取材センター】
始まりは日中韓3カ国の共同企画
「へいわって どんなこと?」は、絵本作家の浜田桂子さん(73)が手がけ、日本では11年に童心社から出版された。「ばくだんなんかおとさない」「おなかがすいたら だれでもごはんがたべられる」などのやさしい言葉と、温かみのある絵で、どういう状態が平和なのかについて描いている。
浜田さんは「平和絵本は戦争の悲惨さを伝えるものが中心で、これが平和だよと伝えるような作品がないと感じていました。自分にとって平和とは何かを考えられるようなものを作りたいという思いが、ずっとありました」と語る。
絵本の制作は3カ国12人の作家によるプロジェクトだ。浜田さんのほか故田畑精一さん、田島征三さん、和歌山静子さんら国内の著名な絵本作家たちが、韓国と中国の作家らに働きかけて実現した。
絵本ができるまでの道のりは険しかった。浜田さん自身、取り組みがうまくいくか当初は懐疑的だった。「侵略の歴史や従軍慰安婦問題を抱える中、韓国や中国は私にとって、とても遠い国だった」。それでも、他の作家と話し合ううちに考え方が変わる。「絵本作家は政治家や外交官のように国を背負う立場ではない。国籍を問わず、子どもの命や感性について考え続けているはず。作家同士なら気持ちが通じ合うのではないか」
不信感乗り越え「強い絵本」に
戦争という負の歴史と、それに伴う複雑な感情を抱く日中韓の3カ国の作家にとって、ともに絵本を作り上げる作業は大きな挑戦だった。
韓国のある作家は当初、「平…
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