コロナ禍で行われる私立大の一般選抜のポイントは、移動を少なく密を避けること。そのため2021年度(21年4月入学)の私立大入試は、共通テスト方式の出願が増え、大都市部の難関大及び準難関大の志願者減が見込まれる。
新型コロナウイルスの感染拡大に収束の兆しが見えない中、間もなく21年度の私立大の一般選抜が始まる。緊急事態宣言による休校など、逆風にさらされてきた受験生が臨む私立大の入試環境は、どのような状況が予測されるのか、河合塾教育情報部統括責任者の亀井俊輔氏に聞いてみた。
「浪人が2割、18歳人口も減少しているので、全体として入試が緩和されそうです。コロナの影響としては、感染者が多く、リモート授業など入学後の生活面でも不安のある首都圏を避け、地元の大学を多く受けようとする動きが強まり、首都圏の大学に出願する他地区の受験生が減ると見ています」
コロナ禍で何かと落ち着かない受験生にとって、入試の倍率が下がるのは歓迎材料。中でも、難関大から準難関大で緩和しそうだ。
グループごとの状況を見ると、早慶上智、MARCH(明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大)、日東駒専(日本大、東洋大、駒澤大、専修大)など、難関大から準難関大まで、グループ全体として志願者が減少しそうだ。地方の受験生が感染者が多い大都市の大学を避けるという動きは、関西圏でも見られ、関関同立(関西大、関西学院大、同志社大、立命館大)や産近甲龍(京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大)の志望者減になって表れている。
入試方式の選択にも影響が見られる。ベネッセコーポレーション・学校カンパニー教育情報センター長の谷本祐一郎氏は言う。
「受験の移動を減らすため、大学入学共通テスト利用方式の志望者が一般方式を上回っています。ただ、難関大については、共通テスト利用方式のハードルが高いので、一度の受験で複数の学部・学科の合否判定が受けられる、全学部方式を活用して移動を少なくしようとする動きが見られます」
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前年の志望者数を100とした難関大の前年比指数から難関私立大の志望動向を見ていこう。模試の私立大志望者全体の指数は90なので、この値を下回る大学は志望者が減っていることを示す。難関大の中でも特に減っているのは、一般的な3教科型ではなく、共通テストと大学独自の試験を組み合わせる国公立型の入試を導入する大学や学部だ。
早稲田大の学部別の指数を見ると、国公立型の入試を導入する政治経済が79、国際教養が87、スポーツ科が63と減っている。共通テストと独自試験ともに初めての実施で、過去問がないことへの不安感が志望者減の要因。それでも、入試方式を変えない学部に受験生が移っていることもあり、他学部の志望状況は堅調で、大学全体の指数は91で微増となっている。
大学全体として、一般方式を国公立型に変更する大学では、上智大が85で青山学院大が81と志望者が減少している。それでも「入試のハードルが下がるわけではない」と話すのは、駿台教育研究所進学情報事業部長の石原賢一氏だ。
「模試では、上智大を併願する東大の文Ⅰ志望者や、早稲田大を併願する文Ⅲ志望者が増えています。共通テストと大学独自の思考力を問う問題を組み合わせる入試は、難関国立大を目指す上位層にとって受けやすい入試なので、倍率が低くても少数激戦になることを覚悟したほうがいいでしょう」
また、受験生の人気が高い大学ということもあり、現時点で志望者が減っていても、実際の出願時は状況が変わる可能性がある。そう予想するのは、東進ハイスクール広報部長の市村秀二氏だ。
「早稲田大の中でも一般選抜で共通テストを課す政治経済、国際教養、スポーツ科は現時点で志望者が大きく減っています。しかし、模試を重ねるにつれ、減少幅が小さくなっているので、実際の出願時はそれほど大きく志願者が減らない可能性もあります」
首都圏の難関大で志願者が増えそうなのは、指数が103と高い慶應義塾大。これまでの入試を継続することから、早稲田大からの志望変更が見込まれることが一因。東京歯科大を統合することが分かり注目度が増しており、さらに難化する可能性がある。
中央大も指数が93で前年を上回っている。昨年、志願者が大幅に減少した国際経営と国際情報の志望者が、その反動で増えているためだ。明治大は指数が90で前年並みとなっている。
立教大も90で前年並み。同大は一般方式の英語を共通テストまたは民間英語検定試験に置き換え、原則として独自試験を行わない。その影響が注目されていたが、共通テストを受けている私立大志望者は多く、英語の独自試験を実施しないことがマイナスにならなかった。さらに、試験日自由選択制による受験機会の拡大も志望者が減らない要因となったようだ。
このように難関大の中には、志望者が増加もしくは前年並みの大学もある。しかし、その数は僅かだ。関関同立は全大学が全体の指数90を下回っている。さらに、コロナ禍特有の事情によって合格者が増え、倍率がより下がる可能性があるというのだ。
「共通テストに第2日程ができたことで、国公立大の特別選抜(共通テストの得点も踏まえた学校推薦型選抜など)の合格発表日が遅くなります。私立大を併願する国公立大志望者は、特別選抜に合格すれば私立大の入学手続きをしません。一般選抜合格者の多くも抜けるので、追加合格が例年より多くなり倍率が緩和されそうです。難関私立大志望者のチャンスが大きい年なので、尻込みせず学力に見合う大学に出願すれば、良い結果がでると思います」(石原氏)
通常なら難関大の志望者が減ると準難関大が増えるが、21年度は減っており、さらに難易度が低い地方の大学が激戦になりそうだ。難関大と準難関大ともに倍率が下がるなら、移動に注意しながらも、自分のポジションを見極めた上で、本来の志望を貫いたほうがよさそうだ。【大学通信・井沢 秀】
*「サンデー毎日」2021年1月17日号より転載。実際の誌面では河合塾、駿台予備学校、東進、ベネッセコーポレーションの難関私立大各校の学科別最終難易度の表が掲載されています。
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