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社説

臨む’21 コロナと経済 格差是正こそ再建の基盤

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 新型コロナウイルス禍は日本経済を直撃し、深刻な格差をあらわにした。弱い立場の人はさらに弱く、強い立場の人は一段と強くなった。極めていびつな構図だ。

 東京都内のホテルで非正規従業員として働いてきた50代男性は仕事がなくなって10カ月になる。給料は正社員の7割程度だったが、客をもてなす役割に誇りを持ち、10年以上も正社員並みに働いた。非正規の自分たちだけ仕事がなくなり、割り切れない思いが募る。

 新しい働き口も見つからない。預金を取り崩す綱渡りの生活があと何カ月持つのか。「もうあきらめの境地です」と嘆く。

 雇用の「調整弁」にされやすい非正規労働者は昨年7月、130万人以上も減った。その後も状況はあまり改善していない。

弱い立場がさらに弱く

 もともと賃金の低い宿泊業や飲食店で働く非正規の女性が職を失うケースも目立った。三菱総合研究所の調査によると、低所得者ほど所得の減少率も大きかった。

 対照的に輸入高級車はコロナ下でも売れ行きが大きく伸びた。都内の大手販売店では、1000万円以上もするポルシェやベンツなどの販売台数が3割も増えた。

 顧客は「ニューリッチ」と呼ばれるIT企業の幹部らだ。コロナでオンライン会議や通販が活発化し、その恩恵にあずかった。株に投資する人も多く、景気とかけ離れた株高が追い風になった。

 政府は緊急事態宣言を再発令する。飲食店などの営業制限が強化され、格差がますます広がる恐れが強まっている。

 問題の根底には、日本経済の大きな構造変化がある。

 経済のグローバル化に伴い、企業は国際競争力を強めようと人件費を切り詰めた。

 デジタル化も進み、企業活動が効率化された。その分、雇用は増えにくく、収益向上によるメリットを得る人は限られている。

 だが、政府はこうした課題に正面から取り組んでこなかった。

 安倍晋三前首相は雇用の改善ぶりを強調したが、実態は非正規が増加分の大半を占め、雇用全体の4割弱に達した。消費も伸びず景気はコロナ前から停滞していた。

 経済再建にはアベノミクスの見直しが不可欠だったが、菅義偉首相は目指す社会像の最初に「自助」を掲げた。競争重視の新自由主義路線を続ける考えなのだろう。

 首相はデジタル化が経済のけん引役と繰り返している。大企業が生産性をさらに高めて、中小企業との差が一層開きかねない。

 政府は再編で中小企業の生産性を高める方針も示したが、取り残される企業が多く出ると経済全体の底上げにつながらない。

 資本主義の下、競争を通じた技術革新が経済を活性化させる。だが、過度の競争で格差が深刻化すると経済にマイナスに働く。

 貧困層が増えれば、勤労意欲を失う人も多くなる。子どもの教育に充てる家計の余裕もなくなり、格差が固定化しかねない。経済の活力がそがれて、結局は生産性も低下してしまう。

所得再分配の強化急務

 格差問題に詳しい橘木(たちばなき)俊詔(としあき)・京都女子大客員教授は「北欧では、所得をより平等に分配する政策と高い経済成長が両立している。多くの国民が自分の将来や社会に対する安心感を持てるようになると、一生懸命働いて生産性も高まる」と指摘する。

 国際労働機関(ILO)は、収入を十分に得られて働きがいのある人間らしい仕事を意味する「ディーセントワーク」を提唱している。安定した生活を送れる人が多くなると消費の裾野も広がる。

 貧富の差を縮めて、厚みのある中間層を形成することが経済の安定につながる。それには所得再分配の強化が急務だ。

 これまでは所得や資産の多い人に課せられる税金が軽減されてきた。豊かな人ほど、今よりも税金を多く払う仕組みにすべきだ。

 日本も含めて近年続いた法人税引き下げ競争にも歯止めをかけなければならない。IT企業などに負担増を求める必要がある。

 非正規労働者の待遇改善も急がれる。欧州に比べると依然劣る最低賃金を引き上げるべきだ。同一労働同一賃金の徹底や正社員への登用拡大も欠かせない。

 経済構造の抜本的な転換が迫られている。深刻な格差を抱えたままでは健全な回復はおぼつかない。格差の是正こそが再建の基盤となる。

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