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コロナで変わる世界

50年脱炭素目標「ガラパゴスにならないラストチャンス」 小泉進次郎環境相

インタビューに応じる小泉進次郎環境相=東京都千代田区で2020年12月24日、藤井太郎撮影

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 日本政府は2050年までに、温室効果ガス排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」を実現すると宣言した。世界で国や企業の脱炭素に向けた動きが急加速する中、小泉進次郎環境相は「日本がガラパゴスにならないラストチャンス」だと語る。その真意とは。【聞き手・八田浩輔、岡大介】

 ――政府は50年脱炭素目標を掲げました。なぜ菅義偉首相の所信表明演説(20年10月)のタイミングで宣言に至ったのでしょうか。

 ◆菅首相の頭の中には官房長官時代から気候変動対策の課題認識があったということだ。20年は気候変動政策を巡り「三つのC」が進捗(しんちょく)した。石炭(coal)、カーボンニュートラル(carbon neutral)、カーボンプライシング(carbon pricing)だ。まず石炭火力発電については、相手国の脱炭素化に向けた方針が確かめられない場合などは、新規輸出プロジェクトへの公的支援をしない原則を7月に決めた。これはインフラ輸出の戦略会議トップだった当時の菅官房長官の理解なしには実現しなかった。その意味でも菅首相は就任後いきなり脱炭素だと言い始めたわけではない。石炭火力の輸出を巡るさまざまな議論の中で、私は50年脱炭素も働きかけていた。結果として米国で(50年脱炭素を公約に掲げた)バイデン大統領が誕生する前に、日本が宣言をすることがぎりぎり間に合った。日本がガラパゴスにならないラストチャンスをつかんだと思っている。

 ――日本の脱炭素目標の表明は、外圧が大きく影響したのでは。

 ◆私からすれば、それでも飛び込まなかったのがこれまでの日本だ。それが今回、政治判断で飛び込んだ。その後の民間の動きを見てほしい。例えば東芝が石炭火力発電所の新規建設から撤退して再生可能エネルギーの事業強化を表明するなど、企業の脱炭素の取り組みが報じられない日はない。それまで50年脱炭素という高い目標は不可能だと抵抗していた産業界の反応は完全に一変した。カーボンプライシングも、これまでは議論の俎上(そじょう)に載せようとしようものなら門前払いされていた状況も、今や官邸の成長戦略会議で議論されるまでになった。菅首相からはカーボンプライシングの導入に向けて私と梶山弘志経済産業相とで連携して検討を進めるよう指示を受けた。この流れを見れば、日本にとって長期的な方向性を示したあの政治判断が、いかに社会や経済にインパクトを与えたかがわかる。非常に前向きな一歩だったと思う。

 ――50年脱炭素に向けた通過点である30年までの温室効果ガス削減目標の引き上げにも注目が集まります。1年前の毎日新聞インタビューで小泉さんは「行動が伴っていないのに野心的に数値目標を引き上げる国だけが評価されるとしたら、日本がその土俵に乗るのは得策ではない」と語っています。当時の見解に変わりありませんか。

インタビューに応じる小泉進次郎環境相=東京都千代田区で2020年12月24日、藤井太郎撮影

 ◆各国の排出削減目標の引き上げ合戦となっているが、大切なのは中身だ。この視点を忘れてはいけない。単純に数字を並べて目標が高い、低いということだけではない。一方で日本国内では50年の脱炭素まで「まだ30年ある」という見方が一部にあるのも事実だ。この考えは完全に間違っている。この5年、10年で何をやるか。30年までの道のりが最も大事であるという意識で政策を総動員したい。

 二酸化炭素(CO2)を回収、貯留して有効利用する(CCUS)、あるいは水素など気候変動対策でイノベーションは大事だが、イノベーションだけに頼ってはいけない。いつ花開くかわからない、いつ市場化できるかわからないものをあてにして、その時まで厳しい対策はやめようと考えるのでは実現は不可能だ。環境省が今後注力するポイントは、まず5年間で日本の中でカーボンニュートラルを実現する先行地域をつくり、脱炭素のドミノを国内で次々に生む。また、従来の政府目標では30年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合は22~24%だが、再生エネ割合の倍増を目指す。これはこの10年が勝負だ。

 政府全体でこの機運を高めたい。エネルギー政策の所管は経産省だが、全体の気候変動対策をまとめあげる立場の環境省として必要な主張はする。エネルギー政策だけを変えてもカーボンニュートラルの実現はできない。ライフスタイル、衣食住を含めた分野も脱炭素型にしなければいけない。経済にも環境にもいい循環を生む。30年の排出削減目標も、26%削減(13年比)という現行の数値にとどまらないものにするのは当然だが、いかに野心的な数値にアップデートして国連に提出できるか。それが今年の大きな仕事になる。

 ――パリ協定は地球の気温の上昇幅を2度未満、できれば1・5度に抑える目標を掲げています。パリ協定を順守すると考える時、念頭にあるのは2度目標ですか。努力目標の1・5度ですか。

インタビューに応じる小泉進次郎環境相=東京都千代田区で2020年12月24日、藤井太郎撮影

 ◆1・5度の高い目標を掲げなければ間に合わない、という危機感を共有しなければいけない。今後の世界の動きによっては、将来的には50年までの脱炭素という目標すら変わるかもしれないと思っている。中国は60年脱炭素を宣言したが、前倒しの余地を残した発射台の可能性もあると見ている。米中対立の中で、中国は気候変動を競争領域ではなく協調領域とすることで国際社会でのプレゼンスを高めていこうとしているように見える。日本も脱炭素は50年「までに」達成する。すなわち最も遅くても2050年だと捉えてほしい。

 ――バイデン政権の誕生で、気候変動対策は米欧が協調して進めていくとみられます。気候外交の分野で日本はどうすれば存在感を発揮できるのでしょうか。

 ◆一言で説明すればブリッジ(懸け橋)だ。途上国と先進国をつなぐ役割を果たせると思っている。19年にマドリードであったCOP25(国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議)では交渉の最前線に立った。各国の利害がむき出しになるパリ協定の条項について欧州連合(EU)とブラジルが対立していた。私はなんとか一致点を見いだすことができないかと両国の間を何度も往復した。交渉のテーブルに着こうともしなかった両国の雰囲気が変わったのは、日本がこれまでの蓄積の中ではじき出したデータを提示した時だった。結果的に交渉は21年のCOP26に持ち越されたが、やり取りの状況を知った国からはぎりぎりの交渉努力が最後まで続けられたのは日本のおかげだと感謝された。国際社会のルールメーキングの中で、日本はこういう役割を果たせると私自身の経験からも思う。

 これから米国がパリ協定に復帰して、中国が気候変動の分野でも大きな影響力を行使する。欧州、日本、途上国を含めて今まで以上に複雑な方程式になりそうだが、あらゆるプレーヤーをつなげることで日本の価値は高まる。環境省は中国とも対話の窓口を持っており、日中韓環境相会合などの枠組みもある。気候外交で日本の強みを生かしていきたい。

 ――一方で自国に有利な環境を整える競争も激化しそうです。グリーンな経済活動を定義するタクソノミー(事業分類)などEUが進める投資の土俵作りには日本の産業界から強い反発があります。

インタビューに応じる小泉進次郎環境相=東京都千代田区で2020年12月24日、藤井太郎撮影

 ◆産業界の受け止め方も変わってきている。外側からタクソノミーはけしからんというのではなく、日本の考えを紹介してルール作りに参加しないといけない段階になった。EUは今年、(環境規制のゆるい国からの輸入品に炭素税をかける)国境炭素調整措置についても一定の考えを出してくる。同様の措置について、バイデン政権も関心を持っている。国際情勢を見ながら後手に回らないように多角的に議論の蓄積をしたい。

 日本でカーボンプライシングが正面から議論できる環境になったのは、三つの変化が影響している。一つ目は国際情勢の変化だ。国内で炭素に価格付けしなくても、海外で(国境調整措置などを通じて)徴収される可能性を検討せざるを得ない。二つ目は国内の変化だ。脱炭素に向けて新たな産業構造に転換するには、価格インセンティブを働かせずしては不可能だ。三つ目は産業界の変化だ。50年の脱炭素宣言を受けて、せきを切ったように民間投資が動いている。

 ――脱炭素を進める上では国民の理解も不可欠です。国際比較調査によれば、日本では「人間活動が気候変動につながっている」と認識する人の割合が、主要29カ国のうち最低でした。

 ◆どのように理解を深めるかは国民的な運動が必要だ。脱炭素に向けて無関係な人はいない。一人一人ができるアクションは何か。地域にあるガソリンスタンドをどうするのか。農家は軽トラックで仕事をする人が多いが、軽トラをどう電動化するか。地域の生活に根ざした形で脱炭素実現への取り組みを一つずつ、環境省が一緒になって推進する。対話の枠組みを活用しながら、自分たちの生活の質を高めることにつながるのだと伝えていきたい。

 ――政府は脱炭素を経済成長のチャンスと位置づけています。一方で環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんは「永続的な経済成長はおとぎ話」だと訴え、世界の若者たちがそれを支持しています。日本でも気候変動に絡めて「脱成長」をうたう本がベストセラーになっています。それでも成長は大切ですか。

インタビューに応じる小泉進次郎環境相=東京都千代田区で2020年12月24日、藤井太郎撮影

 ◆日本は人口が減る。その中で、生活の水準を下げてまで気候変動対策を強化しなければいけないと言ったところで多くの人に理解してもらえるだろうか。私はそうは思わない。生活水準を下げず、経済成長をする中で環境を改善する。この「三方よし」が国民の求める方向性であり、私はそれが実現可能だと思う。目標(の50年)まで30年我慢して排出を減らしてください、というのは無理だ。

 コロナ禍で昨年の世界のCO2排出量が前年と比べて7%減少したと言われている。これだけ日常生活が制限される形で気候変動対策が進むのは誰も歓迎しない。これからは環境と経済は同軸で、環境が成長戦略になる時代。そのような発想で進めることが、結果として多くの人の理解を得て前向きに社会を脱炭素の方向に変え、日本の繁栄を築くことにつながると確信している。

小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)

 1981年、神奈川県横須賀市生まれ。関東学院大卒業後、米コロンビア大で修士号(政治学)取得。2009年、衆院議員に初当選。19年9月に環境相に就任。

岡大介

1982年東京生まれ。2007年毎日新聞入社。東芝不正会計、東電改革、コインチェックの仮想通貨大量盗難事件、財務省の公文書改ざん&次官セクハラ発言問題、GAFA規制など取材。共著に「AIが変えるお金の未来」など。酔うとすぐ寝る。ツイッター @oka_mainichi

八田浩輔

2004年入社。京都支局、科学環境部などを経て外信部。16年春から20年夏までブリュッセル支局で欧州連合(EU)を中心に欧州の政治や安全保障を担当した。エネルギー問題、生命科学と社会の関係も取材テーマで、これまでに科学ジャーナリスト賞、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞(ともに13年)。共著に「偽りの薬」(新潮文庫)。Twitter:@kskhatta

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