新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、首都圏で7日、再び緊急事態宣言が出された。これまで、感染者数が過去最多を更新し続けても、菅義偉首相や小池百合子・東京都知事らが予防徹底を求めても、街に出る人は減らなかった。なぜ「自粛」の呼びかけは私たちに響かなかったのだろうか。心療内科医の海原純子さんに聞いた。【五味香織/統合デジタル取材センター】
――第3波の中、宴会中止など感染対策の呼びかけがありましたが、自粛の動きは広がりませんでした。なぜでしょうか。
◆2020年春の第1波の時は、未知のウイルスへの危機感が相当強かったので、多くの人が外出を自粛していました。今回は「楽観バイアス」が働いていると思います。楽観バイアスとは、災害などの危機的状況でも「自分だけは大丈夫」と思ってしまうような、根拠のない非現実的な安心感のことです。自分の心を守るため、不安から身を守るために、自分にうそをついている状況です。
その原因は、政治家の「非言語メッセージ」が大きいと思います。年末に菅首相が多くの人と会食したという事実や、政治家が記者会見をする時に壇上でマスクを外すといった行動が、言葉ではない形で「大丈夫だ」というメッセージ性を持ってしまっていたのです。
――マスクの着け外しだけでもメッセージになるのですね。
◆コロナ前は、人と話す時にはマスクを外すのがマナーであり生活習慣でした。今は逆に、人前ではマスクをすることになっていますが、すぐに習慣にはできないものです。人前に立つ人は顔を出したいという思いもあり、記者会見でマスクを外してしまうのでしょう。でも、その行為が、見る人に無意識に「マスクを着けずに話しても大丈夫だ」と感じさせています。
――第1波のある時期まで、国会でもマスクをしない議員が多かった記憶があります。
◆世界保健機関(WHO)も当初は、マスクは必ずしも着けなくていいとか、人の往来を止めなくてもいいといった見解でした。しかし、さまざまな研究でコロナのことが分かってきて、マスクに対する認識も変わりました。情報は日々更新されます。アップデートされたものを人々が生活に取り入れるように促すには、まず情報発信する人たち自身が取り入れなければ伝わりません。それができないまま第3波が来てしまったと思います。
それから、SNSの影響も大きいですね。若者の投稿を見ると、自粛している人もSNSで同世代が盛り上がっている様子を見て、「自粛するのがバカバカしい」と思ってしまう傾向があります。
――感染者数の推移は、以前とはケタが違う増え方です。不安になりそうな数字は日々、伝えられています。
◆でも、全然届いていないですね。危機で…
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1998年入社。岐阜支局、中部報道センター、東京社会部、くらし医療部などを経て2020年4月から統合デジタル取材センター。妊娠・出産や子育てをめぐる課題、「生きづらさ」を抱える人たちを中心に取材している。性同一性障害や性分化疾患の>人たちを追ったキャンペーン報道「境界を生きる」、不妊や不育、出生前診断をテーマにした長期連載「こうのとり追って」取材班(いずれも毎日新聞出版より書籍化)。
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