「そんなはずはないでしょう。私は背の君から聞いて、知っているのよ。そなたの目には、この世のすべてが濃淡ある墨色にしか映らぬのだと。そなたがいつも奇妙な色合わせの衣を着ているのも、それゆえなのでしょう」
「なんとまあ、ひどいことを仰せですこと。大(おお)海人(あま)さまは誰にも胸襟を開くお方でいらっしゃいますが、一方で他人に対してお言葉が過ぎる折もおありです。おおかた讃良(さらら)さまがわたくしのことをお嫌いと察しられ、ご歓心を買おうと、ついつい要らぬ偽りを仰(おっしゃ)ったのではありませんか」
大海人の気性に関しては心当たりがあると見え、讃良が一瞬言葉に詰まる。額田は己の衣の胸元を、指でつまんだ。
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