(新潮社・1925円)
石川直樹は「旅暮らし派」の最右翼だと思う。この本は月刊誌の連載をまとめたものだが、毎回が旅の話である。ダッカやサハリンなど旅先からの通信も多い。住民票をおいているという宮古島にも腰をおちつけることはなく、能登、知床、鹿児島と、国内もとびまわる。そのあいまに、世界第二位の高峰、K2に挑んでもいる。いや、K2は「あいま」に行けるような気楽な山ではないし、著者が長期にわたる周到な準備を重ねたこともわかっている。しかし、文章に没入するように読んでいるうちに、人生の一大事といえる旅と「あいま」の旅とが区別できなくなってしまうほど、どの旅も密度が濃いのである。
著者は写真家だから、題材を求めてどんな辺境にも行く。極地や高山を題材にした写真集には、自分の全存在をかけて「そこにいることが困難な場所」にぶつかっているようすが表れている。しかしそれはそれとして、暮らしの中心が旅になる理由はなんだろう。
この記事は有料記事です。
残り913文字(全文1335文字)
毎時01分更新
菅義偉首相の言葉が相変わらず響いてこない。新型コロナウイル…
大阪市を廃止し、四つの特別区を設置する「大阪都構想」の是非…
1月22日に発効する核兵器禁止条約について、アニメーション…