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(新潮社・1925円)
旅先の数だけ「自分」がある
石川直樹は「旅暮らし派」の最右翼だと思う。この本は月刊誌の連載をまとめたものだが、毎回が旅の話である。ダッカやサハリンなど旅先からの通信も多い。住民票をおいているという宮古島にも腰をおちつけることはなく、能登、知床、鹿児島と、国内もとびまわる。そのあいまに、世界第二位の高峰、K2に挑んでもいる。いや、K2は「あいま」に行けるような気楽な山ではないし、著者が長期にわたる周到な準備を重ねたこともわかっている。しかし、文章に没入するように読んでいるうちに、人生の一大事といえる旅と「あいま」の旅とが区別できなくなってしまうほど、どの旅も密度が濃いのである。
著者は写真家だから、題材を求めてどんな辺境にも行く。極地や高山を題材にした写真集には、自分の全存在をかけて「そこにいることが困難な場所」にぶつかっているようすが表れている。しかしそれはそれとして、暮らしの中心が旅になる理由はなんだろう。
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