戦争でなく国際法で対立解決目指す 世界法廷にかける日本人裁判官の思い

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オランダ・ハーグにある国際司法裁判所の執務室でインタビューに答える岩沢雄司裁判官=2020年12月18日、和田浩明撮影
オランダ・ハーグにある国際司法裁判所の執務室でインタビューに答える岩沢雄司裁判官=2020年12月18日、和田浩明撮影

 戦争ではなく、国際法によって国際紛争を平和的に解決する。それが国連機関である国際司法裁判所(ICJ、※1)の主要任務だ。その日本人裁判官、岩沢雄司さん(66)は、こじれた国家間の争いを審理を通じて解きほぐし、国々の振る舞いの指針となる国際法の枠組みを強化する仕事に取り組む。「自国第一主義」が強まる国際社会で、ICJの重要性を、岩沢さんに聞いた。【和田浩明/統合デジタル取材センター】

「どぶ板選挙」で世界法廷へ

 ――ICJ裁判官になるには、選挙に勝つ必要があるんですね。

 ◆裁判官は3年ごとに5人ずつ改選されます。候補者は常設仲裁裁判所(※2)の国別裁判官団が指名します。私の場合、日本を含む40の国別裁判官団が指名してくれました。2020年11月の選挙に出た8候補中最多です。

 指名を受けて、国連総会と安全保障理事会でそれぞれ投票が行われます。総会では国連加盟国193カ国が票を投じるのですが、各国に対して「私に投票してください」と働きかける「選挙活動」を積極的にやりました。

 日本政府は19年2月に私を支持することを表明し、外務省や在外公館を通じて働きかけを始めました。私自身も「弾丸出張」も含めて何度も海外に行き、実際に投票するニューヨークの国連代表部大使や各国の閣僚などに直接、支持をお願いしました。

 ニューヨークでは細かく予定を入れて多くの面談をこなしました。他の訪問先は、安保理理事国を重視しました。接触した国は100カ国をゆうに超えます。なるべく全ての国に直接、支持要請をするという姿勢で取り組みました。

 いわば「どぶ板選挙」を展開したのです。選挙活動をしていると、「過去の選挙では、あの候補は態度が大きいので票が下がった」といったうわさも聞こえてきます。選挙は信頼を得るのが大事だと思い、丁寧な働きかけを心がけました。

最多得票で再選

 20年3月からは、新型コロナウイルス禍で海外出張ができなくなりました。そこでオンラインで支持要請を続けました。オンラインならではのメリットもあって、各国の首都にいる、誰に投票するかを決める政策決定者と直接話をすることもできたのです。

 結果は、国連総会では2回の投票を経て169票を獲得してトップ当選です。安保理投票では全15カ国の支持を得ました。こちらもトップ当選でした。

 ICJの裁判官は個人資格で、国の代表ではないので、岩沢雄司という個人に投票してもらったことになります。私の資質や業績が評価されたと考えたいところですが、どの国出身の裁判官かが投票の重要な要素であることは否定できません。

 選挙活動でも感じましたが、日本は国際社会で信頼されており、日本の候補だから投票してくれた、国際社会での法の支配を重視する日本の姿勢が評価された、という面も強いと思います。

 私を指名してくれた国別裁判官団には安保理常任理事国5カ国(米露中英仏)全ての裁判官団が入っていました。私の前任者で03~18年にICJ裁判官を務め、所長にもなった小和田恒(ひさし)さんも総会、安保理双方で多数の得票をしています。

オンライン判決も コロナ禍で

 ――どんな執務環境なのでしょうか。

 ◆今は裁判所の執務室にいますが、仕事は自宅でもできます。就任する前の大学教授としての生活とあまり変わらない面もあります。各裁判官には調査官、秘書、インターンがつくので、いわば4人のチームで仕事を進めているとも言えます。

 コロナ禍以前は、口頭弁論や判決言い渡しは大法廷に行く必要があり、さまざまな会議のためにも裁判所に来ていました。

 しかし今は、裁判官によっては自国からビデオ会議で審理などに参加する人もかなりいます。コロナ禍でも業務をストップするわけにはいかないので、オンラインを活用して効率化を図っています。

 当事国の提出資料や関連資料を読み、リサーチも行って、口頭弁論が終わると、裁判官が協議しながら判決を仕上げていきます。2~3件を並行して処理することもあります。現在も、20年8月と9月に口頭弁論を行った事件の判決を準備しています。係属案件は14件あり、忙しい毎日です。多くの事件が持ち込まれているのは、ICJが信頼されているということだと思います。

 15人の裁判官は、原則として全員が各事件に関与しますが、当事国が要請すれば5人の裁判官が審理する小法廷が担当することもあります。また、当事国は自国籍の裁判官がいない場合、裁判官を指名できるので、最大17人で審理することもあります。

提訴から判決まで4~5年 当事者間手続きに時間

 ――判決はどのようにつくられますか?

 ◆各裁判官が事件に関する考えを「ノート」と呼ばれる文書にまとめ、これを全員が読んだ上で評議します。ここで方向性がまとまると、3人の裁判官からなる起草委員会が原案を提示し、これに修正を加えながら判決を仕上げていきます。

 提訴から判決が出るまでは4~5年かかっています。これは当事国間の書面交換などにかなりの時間がかかるからです。当事国が口頭弁論を行ってからは半年程度で判決を出しています。

 口頭弁論もコロナ禍の影響を受けていて、以前は1日6時間やっていたのが、裁判官がいろいろなタイムゾーンからオンラインで参加する関係から、1日3時間程度になっています。

 私は18年6月にICJの裁判官になってから、13件に関わりました。国際的な注目度が高かったのは、ミャンマーでの少数者「ロヒンギャ」の取り扱いをめぐる裁判です。「ジェノサイド(集団殺害)罪の防止および処罰に関する条約」違反だと主張し…

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