就任式でトドの小鉄に餌を与える田村新館長=三重県の伊勢シーパラダイスで2020年12月11日、尾崎稔裕撮影

 海獣が幼い頃から大好き。アシカやイルカのトレーナーになりたかった。東大阪市出身の田村龍太さん(44)は、三重県伊勢市二見町江の水族館「伊勢シーパラダイス」に海獣飼育員として就職し、夢をかなえた。入社24年を迎えた昨年、新館長に就任した。新しい役職になって動物たちと過ごす時間は激減、後継の人材育成や組織管理など多忙な日々が始まった。【尾崎稔裕】

 昨年12月、トドの飼育プール前で行われた館長就任式。「これからも人と動物が共存できる空間づくりを頑張ります」と決意表明した。小山毅志社長が「新たな触れ合い体験の魅力づくりに期待しています」と田村さんに辞令を手渡した途端、昇進を祝うかのようにプールのトドが大きくジャンプ。2人は冷たい水を頭から大量にかぶって、ずぶぬれになった。

 伊勢シーパラは、来館者たちが海獣や魚たちと触れ合うことができる「距離感ゼロ」を呼びものにする水族館。セイウチやアシカなど海獣担当だった田村さんは当時、来館者が柵の外側に出たトドと触れ合えるイベントの研究チームに加わった。カワウソの可愛さを発信しようと、ツメナシカワウソとの握手体験を発案して、実現にこぎつけた。どちらも国内初の動物触れ合い体験として話題を呼んだ。

 「これまでは飼育員として目の前の動物たちの健康維持を第一に考えて、どうしたらみなさんに生き物たちに興味を持ってもらえるかを考えていればよかったんですが」。それでは館長は務まらない。今後も施設を継続させるための若手人材の育成、コロナ禍の安全対策、集客計画などの業務が中心となった。

 新たなイベントが来館者の心をつかめるかどうかというコストパフォーマンスも視野に置かねばならない。しかし、上司や同僚たちは「彼の発想力と突破力はだてじゃないから」と信頼を寄せる。

 動物ショーは動物虐待ではないか――。国内外などでそんな論議も起きる時代。「このシーパラでは、スタッフと動物たちは対等の関係でなくちゃいけない。海獣たちは上から目線だと決して動いてくれないし、エサも食べてくれない。動物たちが『人間に強いられている』と感じたら、もうダメ。スタッフ全員は、こんな日常を過ごしているんです」。これが新館長の決意表明である「人と動物との共生」の真意だ。

田村龍太(たむら・りゅうた)さん

 伊勢シーパラダイスは1966年の開館。飼育員の館長就任は初めてという。新館長のずぶぬれ就任式は、動画投稿サイト「YouTube」でライブ配信された。現在も「伊勢シーパラダイス公式チャンネル」で視聴できる。