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社説

臨む’21 コロナ下の震災10年 新たな課題を見つめたい

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 東日本大震災から今年で10年となる。

 関連死を含め2万2000人以上が犠牲になった被災地では、土地の造成や住宅建設などハード面の整備はほぼ完了した。だが、コミュニティーの再生や被災者の心のケアなど課題は残っている。

 特に、東京電力福島第1原発事故で放射能に汚染された福島は、住民の帰還が思うように進んでいない自治体が多い。約3万7000人がいまだに避難生活を続けている。

 そうした被災地に対する人々の関心は、かつてと比べ薄れてきているように見える。

 しかも昨年からは、新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい、他の問題は陰に隠れがちだ。

 このまま震災の記憶の風化が加速するのではないか。そんな危機感が被災地にはある。

 震災とはどういう意味を持つものだったのか。改めて問う必要がある。

弱まった人のつながり

 10年前、人々はまちが津波にのまれるテレビの映像を目の当たりにした。物不足や、原発事故の影響による計画停電で不自由な生活も強いられた。

 その経験は多くの人の価値観を揺さぶり、自分の生き方や社会のあり方に目を向けさせた。

 慶応大の理工系の大学院生だった島田悠司さん(32)は、発生から半年たった被災地で泥かきのボランティアをした。他人を気遣う余裕があるはずのない被災者からお礼に昼食を振る舞われた。

 東京に戻って活動を振り返った時、「人の役に立つうれしさ」が胸にあふれ、涙がこぼれた。

 学生ボランティアを被災地へ送り出す団体の代表となった。周囲が大手IT企業に就職する中、障害のある子らの教育支援などを行う会社に入った。今も別の会社で同じテーマに取り組む。

 「社会の課題に向き合う仕事をしたかった。震災はそう思うきっかけになった」と話す。

 当時、大企業から社会貢献を目的にしたNPOへ転職する人も多かった。原発の再稼働をはじめ、政府の政策に疑問を持った大勢の人が街頭で抗議活動を行った。

 内閣府の「社会意識に関する世論調査」によると、震災後に「何か社会のために役立ちたい」と思っている人の割合が上昇した。とりわけ20代は、前年から10ポイント以上増えて70%に達した。

 だが、その後は全体に減少傾向となり、昨年には20代も震災前の水準に戻った。

 背景には、この10年間で格差が広がり、他人を思いやる余裕がなくなったという事情がある。

 それはコロナ下の今、私たちが直面している新たな問題だ。感染者や医療従事者に対する差別が目立っているのも、日本社会の変化が影響しているのだろう。

被災地を孤立させない

 そうした中でも、被災地の多くのまちでは、震災の記憶を伝える活動を続けている人たちがいる。

 福島県の「富岡町3・11を語る会」は、語り部たちの体験をDVDに記録し、現地に来られない人へ送る準備をしている。新型コロナの影響で、各地の団体客から講演の予約キャンセルが相次いだからだ。

 町では2017年春、一部の帰還困難区域を残して避難指示が解除された。だが現在、町内に住む人は、震災前の1割ほどにとどまっている。

 避難生活が長期に及び、避難先で子どもが進学するなど生活の基盤を移さざるをえなくなったためだ。「戻りたいが、戻れない」という人が少なくない。

 町内では多くの復興作業員ら新しい住民も暮らす。まちづくりには、彼らの協力も欠かせない。

 町に帰れる日を待ち望みながら避難所で身を寄せ合っていた頃と比べ、課題の質が変わった。共同体の再構築など、住民以外には分かりにくく、解決の難しい問題を抱えるようになった。

 語る会の青木淑子代表(72)は「どうしたらいいか一緒に悩んでくれるとうれしい。福島を孤立させないでほしい」と訴える。

 被災地の課題は、人口減少が進む日本の他の地域に共通するものでもある。ともに知恵を巡らすことは、被災地への支援となるだけでなく、自分自身の問題解決にも結びつく。

 「10年」を、多くの人が被災地の今に目を向け、新たなつながりを育むきっかけにしてほしい。

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