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なぜここまで人々の心をとらえるのか。アニメ映画「劇場版『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』無限列車編」が歴代興行収入1位の記録を塗り替えた。新型コロナウイルスの感染拡大でエンターテインメント界の苦境が続く中、346億円を突破した。
物語は大正時代を舞台に、鬼に家族を殺され、妹も鬼にされてしまった少年が、妹を人間に戻すため鬼の討伐に挑むさまを描く。
原作は「週刊少年ジャンプ」の連載漫画だ。テレビアニメの放送やネット配信でファン層が一気に拡大した。映画館には、親子連れから高齢者までが足を運ぶ。
作品の面白さはもちろんだが、巧みな宣伝戦略やコロナ禍でハリウッド大作の公開が軒並み延期されたことなども、大ヒットの要因として指摘されている。
「鬼退治」のモチーフ自体は、「酒呑(しゅてん)童子」や「黒塚」など古くから説話や芸能で繰り返し描かれてきたものだ。
しかし、当たり前だと思っていた日常をコロナが覆したことで、図らずも作品世界が今を照射することになった。
身近な人をコロナで亡くしたり、仕事を失ったりした人もいる。働き方をリセットする必要にも迫られただろう。学生もオンライン授業を余儀なくされ、友人との学校生活を奪われた。
そんな中で、鬼に立ち向かう主人公やその仲間たちの「心を燃やせ」「歯を喰(く)いしばって前を向け」といったストレートなセリフの数々が共感を呼んだのだろう。
単なる勧善懲悪にはとどまらない。「鬼」とは何かということも考えさせられる。
原作では、恨みや妬みといった負の感情が、人間を鬼に変えてしまったいきさつが語られる。
異形のものとして描かれる鬼は、災厄をもたらすもの、共同体における異質なものの象徴だ。
だが、野田秀樹さんが代表戯曲の一つ「赤鬼」で描いたように、時には人間の不寛容な心が敵としての「鬼」を作り出す。
コロナ禍において、他者を排斥する差別的な言動が顕在化した。共同体を脅かすのは外なる鬼だけではなく、内なる鬼でもあろう。
社会の閉塞(へいそく)感に押し潰されそうになったとしても、道を見失わないようにしたい。
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