将棋を天職とするというその夢がむなしく潰(つい)えたのは、おれの天分が、あるいは努力が、ないしその両方が、足りなかったから、という単純な理由によるものだ。その挫折と幻滅をおれは自分の身に引き受けて、これから生きてゆくしかない。
そんなことはよくわかっている、わかっているけれど……それでもなお竜介の心に、ああ、長塚さんさえいなければなあ、というかすかな恨み心が、抑えても抑えても、しつこく首をもたげてくるのだった。将棋はまあ、遊びごとにしておいたほうがいいんじゃないか、とやんわりたしなめてくれていた父の言葉に、もっと真面目に耳を傾けておけばよかったなあ、といまさらながら後悔の思いが胸に迫ってくる。
いや、将棋もいいよ、将棋もいいけれど、でもそれよりちゃんと勉強して、高校を出て、大学を出て……そのほうが……と、父は首をかしげながら、何度か小声で呟(つぶや)いていたものだ。しかし、地元の将棋教室で勝ちまくって、大人たちを感心させていたおれは、鼻高々で、浮き足立っていて、そんな声など耳に入らなかった。そして、ずっと消極的だった父も、ある時点以降、そんなおれの決断を尊重して、おまえがそこまで心を決…
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