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余録

毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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よく「試験地獄」などといわれるが…

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 よく「試験地獄」などといわれるが、昔の中国の官吏登用試験「科挙(かきょ)」が行われる貢院と呼ばれる試験会場には閻魔大王(えんまだいおう)がいると思われていた。そこは受験生が入る何千何万もの独房から成る巨大施設だった▲たとえば南京の貢院には最盛期は2万以上の独房があったという。試験中は兵により封鎖されて警察権も及ばぬ治外法権区域となり、受験生は独房に1科目で2泊3日カンヅメとなった。ほとんど監獄である(宮崎市定(みやざき・いちさだ)著「科挙」)▲そこを支配する閻魔は、受験生の日ごろの行いの善悪に応じて答案の出来を左右すると考えられていた。文字通りの試験地獄なのだが、コロナ禍の今それを聞けば受験生が独房=個室で隔てられていたとの話に思わず反応してしまう▲昨年までのセンター試験に代わる大学入学共通テストがきょう始まる。英語民間試験の延期、記述式試験の見送りなどにも振り回された受験生には、新テストの緊張に加え、コロナ禍による制約や不安を抱えて迎えた試練の時である▲マスク着用、ただ英文字、地図などの柄は不可――がコロナ禍の入試を象徴していようか。換気による寒さも覚悟せねばならないが、追試や別室での試験など事情に応じたコロナ対策もある。どうか落ち着いて試験に集中してほしい▲個室は用意できぬ今日だが、大人への道の試練は厳しいほど必ずその後の人生の糧となる。新テストとコロナという二重の「試験地獄」も決してむだな労苦ではない。貢院の閻魔大王ならばそう言うだろう。

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