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佐藤優・評 『「資本論」エッセンスⅠ、Ⅱ』=鎌倉孝夫・著

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『資本論エッセンス』
『資本論エッセンス』

 (時潮社・2巻セット1万3200円)

労働力の商品化という無理

 本書は、鎌倉孝夫氏(1934年生まれ、埼玉大学名誉教授)の70年近くに及ぶマルクス『資本論』研究の集大成だ。

 評者は、16歳のときに鎌倉氏と面識を得た。当時、評者は、受験勉強から逃げたいという気持ちもあって哲学書や思想書を読み漁(あさ)っていた。そのうちマルクス主義に興味を覚えるようになった。学生運動の時期は数年前に去っていたが、埼玉県立浦和高校にはマルクス主義に関心を持つ生徒が文芸部や新聞部にはいた。共産党系の民青(日本民主青年同盟)は、「勉強もスポーツも頑張り、周囲の信頼を得よう」という路線なので魅力を感じなかった。新左翼は、言葉だけは勇ましいが、知的刺激をそれほど受けず、社会党系の社青同(日本社会主義青年同盟)に引き寄せられた。この組織は、労働大学という教育機関をもち、政治、経済、歴史、組織論について活動家を養成する大学の専門課程レベルの講座を行っていた。ここで勉強した内容は、外交官や作家になってからも役立った。埼玉県の労働大学で経済を担当したのが当時、埼玉大学経済学部助教授の鎌倉氏だった。鎌倉氏から、組合活動家たちと行っている月1回の『資本論』研究会に誘われ、高校卒業まで熱心に参加した。鎌倉氏を通じイデオロギーを排して論理整合性を重視して『資本論』を解釈する宇野弘蔵の経済学方法論を知ったことが、評者のものの見方、考え方に大きな影響を与えた。約10年前から鎌倉氏との交遊が復活し、2年前からは共同で『資本論』の公開講座を行っている。

 『資本論』は全3巻の構成だが、マルクス自身の手で公刊されたのは第1巻だけだ。第2、3巻はマルクスの遺稿を盟友のエンゲルスが編集し、公刊したものだ。21世紀になって格差は拡大するとともに再び『資本論』が見直され、入門書や解説書が多数出ている。ただし、そのほとんどが第1巻だけを対象にしている。鎌倉氏は、『資本論』は全3巻を通して読まないと理解できないと強調する。<ここで指摘しておきたいことは、『資本…

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