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2020米大統領選

2020年11月に行われた米大統領選。共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン氏が争い、バイデン氏が勝利した。

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メルケル首相がトランプ米大統領を擁護? 発言録をドイツ文学者が読み解く

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ドイツのメルケル首相=ベルリンで2018年7月20日、ベルリン支局助手メルリン・ズグエ撮影
ドイツのメルケル首相=ベルリンで2018年7月20日、ベルリン支局助手メルリン・ズグエ撮影

 トランプ米大統領のアカウント永久凍結を巡るドイツのメルケル首相のコメントが、日本国内で議論を呼んでいる。共同通信の配信記事を読み、メルケル氏がトランプ大統領の側に立って凍結したツイッター社の対応を批判した、と受け取った人が少なくない。こうした解釈には、SNS上で「一面的だ」「逆の意味だ」などと疑義が出ている。配信記事にミスリードを招く要素はなかったか。本当は何と言いたかったのか。ドイツ政府のホームページに掲載された報道官会見の発言録を基に、ゲーテ研究で知られる慶応大学文学部の粂川麻里生(くめかわ・まりお)教授(ドイツ文学)に解釈してもらった。【大野友嘉子/統合デジタル取材センター】

共同通信の報道が次々と引用される

 ドイツのザイベルト政府報道官が発表したメルケル首相のコメントを世界中のメディアが報道した。日本の共同通信も次のように配信している。

 <ドイツのメルケル首相は11日、トランプ米大統領のアカウントを永久凍結したツイッター社の決定について、意見表明の自由を制限する行為は「法に基づくべきだ」と述べ、同社の対応を批判した。報道官を通じてコメントした。意見表明の自由を守ることは絶対的に重要だと強調した。メルケル氏は多国間主義の重要性を基本理念に据え、トランプ氏の「米国第一」の政治姿勢に対しては批判的な立場を取っている>

 この記事は、毎日新聞を含む複数のメディアに掲載された。さらに、著名な学者らにSNSなどで次々に引用され、広まった。

 作家の乙武洋匡氏は、自身のツイッターで共同通信の記事を掲載した産経新聞のサイトを引用し、<トランプ氏の政治姿勢を批判してきたメルケル氏だが、Twitter社の対応には異を唱えている。「私はあなたの意見には反対だ。だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という言葉を思い出させる>などとツイートした。1000件以上の「いいね」が付いた。

「意味が逆では」と指摘相次ぐ

 ところが、乙武氏のコメント欄に、疑問を呈する声が上がった。<逆ですよ。メルケルは、規制は法律で一律に行うべきだ(各企業では無くて)と言っています。ドイツは大陸法で法治主義(細部まで法律で規定)、アメリカは英米法で法の支配(自治/分権重視)ですから>

 <違います 規制をIT企業の裁量ではなく法規というより一般的な規範によってさせるべきという主張でメルケルはツイッターのような大IT企業の規制を唱えているだけです EUとGAFAとの戦いの歴史を見れば当然の文脈でもあります>

 共同通信のこの記事を引用した他のツイートにも、次々と疑問の声が出た。

 <メルケルは、トランプのtweetを自由にさせるべきだと言っているわけではない。米国は法規制が乏しい。ネットの暴力扇動表現等の排除は国家がこそ法律によって決めるべきだと言っている>

 検索していくと、ドイツ政治外交史を研究する成蹊大学法学部の板橋拓己教授が、記事について<若干誤解されているようだけど、ここでメルケルが言っているのは、言論の自由はあくまで法律によって制限されるべきだということ>とツイートしていた。

 板橋教授に連絡すると、「報道官は会見で意見表明の自由は大事だとした上で、制約する場合はソーシャルメディアの側ではなく、法律に基づくか、立法府が行うべきだと言っています。しかし、共同通信の記事は順番が逆で言論の自由を強調していますね。また、『elementar』は『根本的』という意味で、『絶対的…

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【2020米大統領選】

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