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毎日新聞朝刊1面の看板コラム「余録」。▲で段落を区切り、日々の出来事・ニュースを多彩に切り取ります。

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戦争が初めてテレビで生中継されたのは30年前の1月17日…

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 戦争が初めてテレビで生中継されたのは30年前の1月17日、湾岸戦争開戦時だ。米国中心の多国籍軍は巡航ミサイル100発以上を次々に発射。映画のように戦争を見る体験はリアルな戦争観を変質させた▲さまざまな意味で、湾岸戦争は現代史の転機だった。翌年、民主主義と自由経済が勝利した米国一極支配の到来を説く「歴史の終わり」がベストセラーとなるが、そこは絶頂だった。後に同じ著者は「アメリカの終わり」「政治の衰退」を著す▲10年後に米国の威信を傷つけた9・11米同時多発テロやイラク戦争は、湾岸戦争に起因するからだ。敵の姿が見えない「テロとの戦い」で社会生活の監視・規制は日常に入り込んだ。コロナ時代を先取りしていたかのようだ▲日本も例外ではない。自衛隊海外派遣が始まり日米同盟は強化され、大国らしい政治体制に変えようと小選挙区制導入で政治主導を推し進めた。安倍晋三前政権が実現した集団的自衛権行使容認や官邸1強体制は、「湾岸」以来の政治が追求してきた到達点と言えるのかもしれない▲「強い政治」は国家の危機管理と安全保障を最重視してきたはずだ。なのに、現状はどうだ。軍事強国たらんと競ってきた国々は、新型コロナウイルス感染拡大の前にどこも無力をさらしている。どんな最新兵器も同盟関係も効かない▲そもそも感染症対策は、人類史上最も古い安全保障課題のはずであった。そこを忘れて湾岸戦争この方、世界が求めてきた「強さ」とは何だったのだろう。

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