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ウイルスに見る自然の戦略 迫られる「知性」の再構築=中西寛・京都大教授

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=宮武祐希撮影
=宮武祐希撮影

中西寛(ひろし)・京都大教授

 新型コロナウイルスの感染が世界的に再燃し、日本でも緊急事態が再び宣言されるに至った。緊張した状況下で必死の努力を続けている医療者はじめ関係者に心からの感謝と敬意を表したい。

 このウイルスを人類が認知して1年が過ぎた。一部の国で感染を封じ込めているが、以前のように国境を開放してコロナ前の日常を取り戻した社会はない。複数のワクチンの開発は朗報だが、医療的に重要でありうる変異株が複数発見されており、予断を許さない。

 改めて感じるのはこのウイルスに示される自然の知性である。ウイルスは生物とも非生物とも言えない存在だが自然の一部には違いない。人類は知性を生物としての脳細胞の人類固有の発達という視点から捉えてきた。しかし最近になって、人類は人工知能(AI)を作り出し、それが完全情報の推論に基づく碁などのゲームでは人類の知性を上回ることを知ったばかりである。AIのように機械の知性が成立しうるなら、ウイルスのようなたんぱく質に知性が存在していてもおかしくない。環境変化への適合が知性の主要な機能なら、変異しつつ再生を繰り返すことでウイルスは環境に見事に適応しているのであり、それを知性と呼んでも差し支えなかろう。

 私の見るところ、新型コロナの特徴は、人類の医療的知識をも環境要因として捉え、それに適応する戦略を見いだしたことである。検査、隔離、治療という手段で感染症を抑え込んできた現代医学に対し、無症状での感染で検査を回避し、大多数を軽中等症にとどめることで社会活動を持続させて感染機会を維持し、今のところ原因の分からない理由で一部が重症化することで医療資源に負担を課して隔離、治療を困難にする。

 現状で人類が希望を託すワクチンは、幸いなことに変異株にも対応できると言われている。ワクチン普及によって人類に害の少ない変異株が優勢となっていくパターンが望みうる最善であるように思える。

 しかし中長期的に見れば、自然の知性および機械の知性との対比において人類の知性とは…

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