この国はどこへ コロナの時代に 安全と経済、分離できない菅政権 元内閣官房参与・田坂広志氏
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「最悪想定」軽視 医療崩壊招く
コロナ禍にあえぐこの国は、厳しい局面に入った。年が明け、「緊急事態宣言」の再発令が4都県から11都府県に拡大され、政府の対策が「後手」と批判されている。元内閣官房参与の多摩大大学院名誉教授、田坂広志さん(69)は、菅義偉政権は「危機管理の原則」を理解し、その原則に戻るべきだと提言する。
緊急事態宣言の再発令では、経済活動を大きく制約した昨春とは違い、飲食店を中心に営業時間短縮を要請するなど対象が限定された。経済への配慮を優先した判断だが、田坂さんは、そもそも「経済と安全のバランスを取る」という考えが危機管理の原則から外れていると指摘する。「それを理解しない限り、政府のコロナ対策は決して有効なものになりません」
東京大で原子力工学を専攻した田坂さんは、東日本大震災の発生直後の2011年3月末、内閣官房参与に就任し、官邸で東京電力福島第1原発事故の対策にあたった。その危機管理の専門家が、政府の新型コロナウイルス感染対策で使われる最も危うい言葉が「経済と安全のバランス」だと指摘する。「これは極めて曖昧な言葉で、政府が感染対策を恣意(しい)的に緩めたり引き締めたりするために使われています。本来、安全確保のための客観的基準を明確に定め、経済対策を講じるべきなのですが、その基準を曖昧にしたまま場当たり的な対応をしている。国民が不安になるのも当然です」
この不安に拍車をかけているのが菅首相のメッセージ力の欠如だ。首都圏4都県への宣言再発令が決まった7日。国民に強いインパクトを与えたのは首相の訴えではなく、2447人という東京の感染者数ではなかったか。「感染拡大を防止するために全力を尽くし、ありとあらゆる方策を講じてまいります」。7日、首相は国民にこう呼び掛けた。「政府の対策が効果を示さず、想定を超えて事態が悪化している局面で、首相に求められるのは抽象的な決意表明ではなく、国民が安心できる具体的な改善策を示すことです。そして、原稿を棒読みするのではなく、自分の言葉で語ることです」。田坂さんの目にも、国のトップリーダーの姿は、自信がなさそうに映った。
では、なぜ、菅首相の言葉を聞いても国民は安心できず、納得できないのか。田坂さんに問うと、菅首相が理解すべきは「非言語的メッセージ」の怖さだという。「メッセージは、言葉で伝わる部分が2割、言葉以外のまなざしや表情、仕草や行動で伝わる部分が8割です。言葉でどれほど決意を語っても、内心に不安や迷いがあると、それが伝わります。また、言葉より行動によるメッセージの方が、国民に…
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