
米国第一主義で世界と米社会を揺るがしたトランプ米大統領が20日、任期末を迎えた。再選を阻まれた大統領選に前後して、「トランプ劇場」の終幕を感じさせる二つの訃報に接した。
熱烈ファン指揮、トランプ氏応援
昨年10月19日、中西部ミネソタ州の高速道路で、ミニバンが接触事故を起こし横転。運転していた元海兵隊員ランドール・トムさんが即死した。60歳だった。遺体からアルコールが検出されたという。トムさんはトランプ氏の「一番のファン」と呼ばれた支持者だった。2016年以降、足を運んだトランプ集会は68回を数えた。
私が各地の集会で目にしたトムさんの姿は「応援団長」そのものだった。星条旗柄のテンガロンハットが目印。横断幕を手に動き回り、聴衆にウエーブを呼びかける。高齢者を気遣い、障害を持つ子を目にするとバッジやキャンディーを渡していた。一方で民主党候補者の集会に押しかけて乱闘を起こし、逮捕されたこともあった。
何度か話を聞いた際、トムさんは「米国に自信と誇りを取り戻したトランプの素晴らしさを広めたい」と繰り返していた。1983年のベイルート米海兵隊司令部爆破事件で大隊の仲間の多くを失い、除隊後は薬物中毒に苦しんだ。キリスト教への信仰や愛国心を思い出させてくれたのがトランプ氏だったという。具体的な政策の評価については聞いた記憶がない。
トランプ集会の取材は不思議だ。熱烈な支持者一人一人に話しかけると、たいてい驚くほど丁寧に応じてくれた。そして衰退する地域社会を嘆き「倫理や家族の大切さ」を語る。だが、ひとたび集会が始まると、移民を排斥し、非白人を嘲笑するようなトランプ氏の発言に歓喜する集団へと変貌する。「メディアは国民の敵だ」と記者席に罵声を浴びせ、民主党を「撃て」と連呼する支持者をトランプ陣営はアーミー(軍隊)と呼んだ。
だから取材後は、いつも親しみと嫌悪の二つの感情が残った。あれほど顔を紅潮させ叫んでいた支持者たちが、トランプ氏の演説が終わると拍子抜けするくらい静かに家路につく。善と悪、虚と実が入り交じる壮大なプロレスを見せられている気分にもなった。「自分は新型コロナウイルスで死ぬよりも、自動車事故で死ぬ確率の方が高い」とうそぶいたトムさんが本当に事故で亡くなってしまったと知ったとき、そのプロレスが終わったように感じた。
巨額献金するも最後は決別宣言
もう一つの死は…
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