坂上泉さん「小説通じ昭和を歴史化」 2作目「インビジブル」で大きく飛躍
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歴史に失礼ではないか。物語に失礼ではないか――。執筆中は、物語性と史実の兼ね合いに悩んだという。戦後間もない頃の大阪を描いた警察小説「インビジブル」が第164回直木賞候補に選ばれた坂上泉さん。惜しくも受賞は逃したものの、デビューからわずか1年半、2作目となる書き下ろしの長編で大きく飛躍した。
実在した「大阪市警視庁」を舞台とした警察小説。政治家秘書の殺人事件を発端に、戦争の傷を乗り越え、新しい時代を作ろうと奮闘する人々の物語が展開する。戦後史を扱ったノンフィクションを読み、東京だけと思っていた「警視庁」が、大阪にもあったことを知ったのが執筆のきっかけという。
戦後、連合国軍総司令部(GHQ)による民主化政策の一環で、市町村ごとに運営される「自治体警察」が各地に設置された。警察機構の中央集権化に伴い、5年あまりで廃止されたものの、大阪市警は市民の声を聞く窓口を設けるなど「民主警察」として先駆的な取り組みをしていたとされる。
「民主主義や地方分権の理想を、上から押しつけられただけでなく、自分たちの力で作っていこうという時代があった。そのことに面白さを、それが消えてしまったことにもの悲しさを感じました」
忘れられた存在へのまなざし
会社勤めの傍ら小説家養成講座に通い、松本清張賞を受賞したデビュー作「へぼ侍」を書き上げた。大学で近現代史を学んだ経験から、綿密な時代考証が持ち味。本作でも当時の新聞などを調べ、米の配給や食卓の風景など、ディテールにこだわった。
「『へぼ侍』は何も背負っていない状態で書けましたが、2作目は実…
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