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この国はどこへ コロナの時代に 「知の巨人」松岡正剛氏、思索のすすめ 「心の免疫」が自分を守る

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松岡正剛さん=東京都世田谷区で、宮本明登撮影
松岡正剛さん=東京都世田谷区で、宮本明登撮影

 100年に1度の公衆衛生危機とされる新型コロナウイルスの猛威は収まる兆しが見えない。「知の巨人」とも言われるあの人は、疫病に翻弄(ほんろう)されるこの時代とどう向き合っているのだろう。希代の読書家で書評家、著名図書館の館長などさまざまな顔を持つ松岡正剛さん(76)のことだ。

 背筋がピンと伸びたたたずまい。眼鏡の奥から時折放たれる何かを凝視するような視線。東京都世田谷区内にある編集工学研究所の数万冊の本に囲まれた「本楼」と呼ばれるブックサロンを訪ねると、松岡さんは凜(りん)とした空気を身にまとい、壮健な様子だった。

 新型コロナ感染者数は国内で30万人を突破して死者数は4000人超、世界の死者数は200万人を超えた。国境は閉ざされがちで、近年急速に進んできたグローバル化の波は急停止している。対する松岡さんは毎日仕事場に出かけ、家に戻っても午前3時ごろまでは本を読んだり執筆したり。30年以上続く日常はそれほど変わっていない。

 まずは聞いてみた。コロナ禍の日本社会はどう映っていますか、と。「『有事』に対応できていない気がします。危機意識を持つことは必要ですが、その意図と方策があらかじめ組み立てられたものになっていません」。そう語り出した松岡さんは、30代の頃から自身の心の軸に置いてきた「静慮(じょうりょ)」という言葉を口にした。静慮とは、仏教と関わりがある哲学用語で心を静め、物事を考えるという意味だ。「医学、生物学的に新型コロナへの免疫を人類がどう獲得できるのかが重視されています。でも、不安や恐れはそれ以前から等し並みにやってくる。医療、人間社会の基盤が崩壊する危機も迫る。一人一人が『心の免疫』を持つ必要もあります」

 人類史に刻まれるであろう災厄は社会構造の大変革を迫っている。政治も学校も会社も家族も浮足立っている。「ウイルスも変異するが、社会も『感染変異』しているんです。そのため刻々変異する情報に対応しきれなくなっている。生物学的な免疫、社会的な免疫、心の免疫が三つどもえでやってきたからです」。こんな時期こそ「心の免疫」が涵養(かんよう)される必要がある――。松岡さんはそう示唆するのだ。

 具体的にどうすれば? そう問うと、松岡さんは「平時」と「有事」という対をなすキーワードに言及した。危機と混乱の時代に焦らず、冷静さを保つには自身の日々の暮らしを見つめ、「平時の中の有事」「有事の中の平時」の関係性を理解することが大切ではないか、と。

 「ここが江戸時代の日本だと仮定しましょう。ある侍が毎日、同じような日々を送ることとしていた。同じ時間に同じ経路で道場や城に通う。そうすれば道中で知らない、少し肩を揺らした不審な男にすぐ気づける。毎日、川の水を見ていればその変化に気づき、森の枝の葉を知っていれば、森の危機を察知することにもつながります。これが『平時の中の有事』、つまり身の回りに潜むリスクに対応するということなのです」。平時の情報の変異を把握していてこそ、やがて…

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