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バイデン大統領就任 米国の結束どう取り戻す

 米国の新しい時代は静寂と沈鬱の中で始まった。民主党のバイデン氏が第46代大統領に就任した。

 78歳という史上最高齢での着任である。副大統領には初の女性・黒人・アジア系で56歳のハリス氏が就いた。

 両氏が宣誓した連邦議会議事堂は閑散とし、パレードを見守る観衆もいない。熱気あふれるいつもの就任式の光景からはほど遠い。

 新型コロナウイルスの感染拡大に加え、議事堂乱入事件で行事は大幅に縮小された。州兵が市中を警戒し、戒厳令下のようだ。

 異例の式典になったのは、なぜなのか。責任はトランプ前大統領にある。だが、その姿はなかった。就任式を欠席した大統領は南北戦争後の1869年のアンドリュー・ジョンソン以来だ。

超党派を政治の基本に

 トランプ氏が残した「負の遺産」はあまりに大きい。

 「米国を再び偉大に」をスローガンにした政策は移民や難民を排斥し、差別を助長した。民主的で寛容な社会に深い断層を生んだ。

 「米国第一」の下、国際社会の利害を顧みない身勝手な外交でひたすら自国の利益を追求し、世界を翻弄(ほんろう)し続けた。

 コロナは、感染リスクを軽視したツケで収束する兆しもなく死者が40万人を超えた。大統領選が示した民意すら踏みにじった。

 その結果が2度の弾劾訴追だ。外交を私物化した権力の乱用や、乱入事件につながる反乱の扇動が問われ、米国の権威をおとしめた。

 米国をこれほど混迷の淵に陥れた大統領もまずいない。正常な姿に再建することが、バイデン政権の最大の課題になる。

 「分断」ではなく「団結」を――。就任演説で強調したメッセージは簡明だ。その一端は、新たな閣僚らの顔ぶれを見ればわかる。

 女性が半数を占め、黒人、アジア系、先住民など少数派を多く起用した。中道派中心の布陣は共和党の協力を得る狙いだろう。

 初日には、連邦施設でのマスク着用徹底や気候変動対策のパリ協定復帰の大統領令などに署名した。国内外の結束を促すものだ。

 「団結しなければ平和はなく、恨みと怒りがあるだけだ」とバイデン氏は述べ、危機に挑戦する時代だと強調した。

 ただし、その団結を実現する道のりは険しい。

 企業が潤えば従業員もやがて恩恵を受けるという長年の経済政策はほころび、グローバル化による産業空洞化で困窮した。

 富を独占する富裕層と時代に取り残された中間層の格差は数百倍に達する。この不満がトランプ氏を押し上げてきたのは明白だ。

 バイデン氏は「すべての国民のための大統領になる」と誓った。有色人種はもちろん多くの白人もあえいでいる。党派を問わず弱者に手の届く政策が実行できなければ、融和は図れまい。

「トランプ」再来阻止を

 「同盟関係を修復し、再び世界と関わり合う」。外交政策では、戦後の国際秩序をリードした米国を復活させる姿勢をみせた。

 超大国の存在感を米国が示したのは、クウェートに侵攻したイラクを排除した30年前の湾岸戦争だろう。シャトル外交で国際社会をまとめあげたベーカー元国務長官は「米国の軍事・外交で最も輝かしい時代」と振り返っている。

 しかし、その後、同時多発テロ、アフガニスタン・イラク戦争、リーマン・ショックを経て国力の疲弊は著しい。

 トランプ氏が去っても以前の米国がよみがえるわけではない。中国や世界の課題に対処するには同盟国との政策調整が重要になる。

 重大な課題は、トランプ氏が痛めつけた民主主義をどう再生するかだ。「民主主義は尊く、もろいものだ」とバイデン氏は言う。

 ソーシャルメディアを通じて拡散した虚偽や捏造(ねつぞう)が、あたかも真実のように流布する現状はきわめて深刻だ。虚構の世界に支持が集まる異常な状況を封じ込まなければ、「第2のトランプ」がいつ生まれても不思議ではない。

 暗殺されたリンカーン大統領を継いだジョンソンは政敵を放逐し、史上初の弾劾訴追を受けた。後任のグラント大統領は苦労を重ねながらも南北戦争後の「再建」に取り組んだ。

 国民の不満を和らげ、超党派で分断を克服する。中露などの権威主義に同盟国と対抗し、環境や核問題で世界と協調する。難題だが、いずれも歴史的な使命である。

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