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アナキズム再考/中 伊藤野枝、荒ぶる魂の遺産=作家・村山由佳

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大杉栄、伊藤野枝殺害事件。向って右より伊藤野枝、大杉栄、魔子、進。
大杉栄、伊藤野枝殺害事件。向って右より伊藤野枝、大杉栄、魔子、進。

 伊藤野枝、と聞いてぴんとくる人は、どれくらいいるのだろうか。

 彼女についての評伝小説を、と編集者から提案された当初、正直なところ私にはほとんど知識がなかった。雑誌『青鞜(せいとう)』を平塚らいてうから引き継いだ2代目編集長、アナキスト大杉栄との自由恋愛スキャンダル……あたりまで聞いてようやく「ああ」と、昔たしかに読んだはずの瀬戸内晴美著『美は乱調にあり』を思いだす程度だった。

 読んだのに忘れてしまっていたということは、あの当時の(20代初めの)私にとってはまだ遠い物語だったらしい。若さという価値に傲慢で、男が女を値踏みする視線を当たり前に受け容(い)れていたあの頃の私には、野枝の掲げる婦人解放の志はもとより、『青鞜』に加わった女性たちの閉塞(へいそく)感も、ましてや幸徳秋水から堺利彦や大杉栄らへとつながってゆくアナキズムもすべて、自分とはほとんど接点のない人ごとだった…

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