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(みすず書房・6930円)
人の心の成り立ちを知る
感染への不安とその反動としてのコロナ疲れ、著名人を自死においやるネット上の中傷、陰謀論の拡散、連邦議会議事堂の襲撃……。私たちは今、感情の暴走を日々目撃する時代に生きている。「ウイルスより人が怖い」。そんなふうに感じている人も多いのではないか。SNSが土壌となり、コロナ禍が火をつける。分断が加速し、疑心暗鬼になる世界の中で、私たちは感情をどう扱えばよいか、持て余しているようにも思える。本書は、そんな時代の道標となる、感情史の重厚な入門書だ。古代ギリシアのパトスから現代の脳科学まで、扱われる領域は広い。
一方にあるのは、社会構築主義的な見方である。たとえば、一九世紀初頭にタヒチに赴いたキリスト教の宣教師たちは、現地の人々が本当に改宗したのか、その判断にとまどった。タヒチの人たちは、ヨーロッパ人には胡散臭(うさんくさ)く思えるほど表情豊かで、中身のない共感を示すように見えたからである。こうした世界中の事例をもとに人類学者たちが主張したのは、感情が、人間の中にもともと備わるものではなく、社会的に作ら…
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