「僕たちは世界を変えることができない」 原作医師がパレスチナにマスクを送る理由

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医師の葉田甲太さん=本人提供
医師の葉田甲太さん=本人提供

 新型コロナウイルスの感染が収束せず、世界各地で医療現場の疲弊が進んでいる。なかでも、イスラエルによる経済封鎖が続くパレスチナ・ガザ地区は深刻な現場の一つだ。映画「僕たちは世界を変えることができない。」(2011年公開)の原作者で主人公のモデルにもなった医師、葉田甲太さん(36)が中心になり、ガザ地区に医療用マスクを送るプロジェクトを進めている。ガザ地区とは、どんなところなのか。なぜガザにこだわるのか――。【鵜塚健/統合デジタル取材センター】

「命の格差を減らしたい」

 葉田さんは兵庫県出身。日本医科大2年だった05年、東京・渋谷の郵便局でふと目にしたパンフレットが人生を変えた。「カンボジアの子どもたちに屋根のある学校を。150万円の寄付で、教室が五つもある学校が建ちます」。海外支援にあてるボランティア貯金を呼びかけるものだった。

 バイトやコンパに明け暮れる学生生活に退屈を感じていた葉田さんは心を動かされ、学校建設を決意。友人らとチャリティーイベントを開いて資金を集め、1年後に学校開設にこぎつけた。一連の経緯は「僕たちは世界を……」とのタイトルで書籍が出版され、11年には俳優・向井理さん主演で映画化されて話題になった。

 葉田さんは現在、東京都在住で首都圏の診療所の医師として働きながら、今も海外への支援活動に携わる。大学卒業後もカンボジアで教育支援を続け、17年にはNPO「あおぞら」(京都市)を設立。カンボジアで病院建設、タンザニアとラオスで医療支援に関わってきた。活動の原動力は、生まれた環境によって人の生死が左右されるような「命の格差」を減らしたい、との強い思いだ。20年は「現地を行き来して、活動をさらに本格化させたい」と考えていたが、新型コロナウイルスの影響で、計画が完全に崩れた。

 「移動が制限され、現地に行けない。この状況下で、自分は何ができるのか」。そんな葛藤の中、中東地域のパレスチナ難民を支援する国連機関UNRWAの清田明宏・保健局長と知り合った。

 UNRWAは、パレスチナ自治区やレバノン、ヨルダンなどの周辺国に逃れた難民を対象に、教育や医療、福祉分野で支援する機関だ。なかでも、生活環境が劣悪なパレスチナ自治区のガザ地区の支援に重点を置いている。

 ガザ地区は、種子島よりやや小さい365平方キロに約200万人が暮らし、半数以上が難民とされる。パレスチナ自治政府が統治しているが、イスラエルの封鎖政策で人と物資の移動が制限され、「世界最大の監獄」ともいわれる。

 そんなガザ地区では、新型コロナウイルスの拡散が抑えられてきたが、20年8月以降、市中感染が拡大。もともと貧しい住民が多く、密集して暮らすため、感染者が一気に増加した。コロナ感染者は4万8626人(1月21日現在)で、人口あたりの感染者数は日本の10倍ほどの多さだ。

「ガーゼ」由来の地区でマスク不足

 清田保健局長によると、ガザ地区ではもともと、基礎的な医療は対応できるが、高度医療は医療機器の不足などから十分にできないため、重症患者は隣国ヨルダンなどに搬送している。封鎖するイスラエル政府に許可を得る必要があり、半数ほどは許可されないという。

 そうした脆弱(ぜいじゃく)な医療体制の中で、新型コロナの感染者の多くは自宅で待機するしかなく、隔離も徹底されていない。高度医療の体制や集中治療室(ICU)の設備が限られ、医師や看護師の医療用マスクも足りないという。

 清田保健局長からガザの現状を聞いた葉田さんはマスクの支援を決めた。「今は自分で動けなくても、現地で支援に当たる人らを間接的に助けることはできる。コロナの影響をきっかけに、考え方が大きく変わった」

 ちなみに、マスクに使われるガーゼは、ドイツ語(Gaze)の医療用語で、ガザ地区から来た品質の高い織物から命名されたといわれている。ガーゼの「故郷…

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