報道は「密」を演出したのか カメラマンから見た「圧縮効果」批判と撮る側の悩み

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同じ地点から焦点距離28ミリの広角レンズで撮影した写真(左)と焦点距離300ミリの望遠レンズで撮影した写真(右)。左は人々の間に空間があるのが分かる。右は圧縮効果で遠近感が弱まり、通行人同士の距離が分かりにくいが、マスクの着用率や表情はよく見える=東京・原宿で2021年1月21日午後2時49分、丸山博撮影
同じ地点から焦点距離28ミリの広角レンズで撮影した写真(左)と焦点距離300ミリの望遠レンズで撮影した写真(右)。左は人々の間に空間があるのが分かる。右は圧縮効果で遠近感が弱まり、通行人同士の距離が分かりにくいが、マスクの着用率や表情はよく見える=東京・原宿で2021年1月21日午後2時49分、丸山博撮影

 新型コロナウイルス感染拡大後、人混みの写真が報じられるたびに「圧縮効果」という単語が飛び交うようになった。大勢の人を遠くから望遠レンズで撮影すると、近くで撮った時より密集しているように見える効果のことだ。中には「演出」「捏造(ねつぞう)」などの批判もある。写っているものは厳然たる事実だが、同じ被写体でも撮り方で見え方は違ってくる。コロナ禍で人の密集度をどう表現するか、カメラマンの私はいつも悩みながら撮影している。報道写真が伝える事実とは何かを考えたい。【丸山博/統合デジタル取材センター】

イチョウ並木での迷い

 昨年11月、東京都立川市と昭島市にまたがる国営昭和記念公園でイチョウ並木の黄葉を撮影した。落ち葉で道路まで黄色に染まる美しい光景だ。焦点距離400ミリの望遠レンズで撮ると、黄葉は重なり合い、約300メートルに98本ある並木の奥まで写真に納まる。しかし、人が密集しているように写ってしまう。

 一方、24ミリの広角レンズで撮ると、人はまばらになるが、木の幹や道路が画面を占める割合が増える。「望遠で奥まで撮った方が来園者の楽しそうな様子を伝えられそうだが、『密』と誤解されないか」――。

 この時は結局、9枚の写真を使ったウェブ記事にすることになり、両方の写真を載せることができた。しかし、新聞紙面では1枚しか使わないことがほとんどだ。どちらか選べと言われたら、相当悩んだだろう。

広角レンズでは「パース」というゆがみが生じる

 圧縮効果とは、遠くのものを望遠レンズで拡大して見たときに手前と奥の距離が圧縮され、近接して見えることだ。

 森の中では木々の間に歩けるくらいの空間があっても、遠くから眺めれば密集して見える。人混みも同じだ。遠くから撮れば密集しているように写る。

 テレビの野球中継もそうだ。投手の背後から打席の打者を映すおなじみの映像は球場のバックスクリーン付近から超望遠レンズで撮るが、手前の投手と、そこから18メートル以上奥にいる打者が同じぐらいの大きさに見える。

 逆に、近い距離から広角レンズで撮ると、遠近感が強調され、実際よりも前後左右の距離が離れて見えることがある。圧縮効果に対して、これを「パース」と呼ぶ。遠近法や視点を意味する英語の「パースペクティブ」の略だ。

 スマートフォンで自撮りした顔に微妙な違和感を抱いた経験はないだろうか。至近距離から広角で撮影されるため、鏡で見るよりも両目、鼻、口の間が少し離れて見えるのだ。被写体から数メートル以上離れ、中望遠…

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