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沖縄、台湾をつむぐ

琉球王に仕えた名家・川平家。琉球処分から日本統治下の台湾、戦後の沖縄へ。激動の時代をたどり、沖縄と台湾を見つめます。

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「屋敷に桑の木を植えることから始めよう」 伊是名島で養蚕指導

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伊是名島に残っていた桑の古木。銘苅正康さんの案内で、6本あるのが確認できた=沖縄県伊是名村で鈴木玲子撮影
伊是名島に残っていた桑の古木。銘苅正康さんの案内で、6本あるのが確認できた=沖縄県伊是名村で鈴木玲子撮影

 明治時代に伊是名(いぜな)島の駐在巡査になった川平朝平(かびら・ちょうへい)さんは、元々の専門だった養蚕の普及・指導に情熱を燃やしていた。

 伊是名村の行政集録史によると、1891年に浜の上(浜之上)戸兵衛巡査が養蚕に取り組んだ。1904年に赴任した朝平さんが後を継いだ。

 その活動について、当時、伊是名小学校長だった仲田文五郎さんが語っている。「『まず伊是名村の産業開発は養蚕業を盛んにすることだ。それには屋敷に桑の木を植えることから始めよう』との川平巡査の指導で、各戸屋敷内に桑の木を植えたのです。そして『あさき』ぎに蚕棚を造り、糸繰りの作業、機織りなどまで指導されたものです。村の婦人や青年らを集めて熱心に指導される。それがまた村では親睦になったし、いろいろな意味で伊是名島の人々の働く意欲と喜びが倍加したものでしたよ」

 蚕が食べる桑を家に植えるよう奨励し、祭祀(さいし)を行う際に使うかやぶき屋根の建物「神アサギ」に、なんと蚕棚を造って糸繰りや機織りも教えた。また野原に散乱する牛や馬のふんを集め、堆肥(たいひ)にする方法も指導した。

 その痕跡を求めて島を訪れた記者は、集落の一つ、伊是名地区で桑の古木を探し歩いた。伝統的な平屋建ての家屋が並ぶ。「ここにあるね」。案内してくれた元同村職員の銘苅正康(めかる・まさやす)さん(66)が指さす方向に、高さ5メートルほどの桑があった。「樹齢100年ぐらいたつかもしれない」と言う。

 島ではもう養蚕は行われていない。かつて家々に植えられた桑もほとんどなくなっていた。銘苅さんは「桑は繁殖力が旺盛で、家の基礎の下まで根がはって家が傾いたという話があったぐらいだ。だから養蚕をやめたら庭の桑を切り倒した家が多かった。それでほとんど残っていないんだ」と話す。今ある古木は、家が無くなって桑が放置されたから残ったそうだ。伊是名地区に4本、勢理客(せりきゃく)地区に2本の計6本残っているのが確認できた。

 島の機織りを知っている人を訪ねた。勢理客地区の棚原キミさん(93)は16歳のころ、機織りの名人だった母カマさんに教わって、1反織り上げた経験がある。「糸繰りがなかなかうまくできなくて大変だった」。自分で織った反物は本土に送って、京染をして絹の着物に仕立ててもらった。

 カマさんは蚕を育て、糸を作っていた。最初のころは糸を売り、その後はマユで売った。いい現金収入になった。「蚕を飼っている家は多かったけど、作業が大変だったから糸にしている家は少なかったね」と話す。家や畑の周りに15本ほど桑を植えていたそうだ。

 仲田地区に暮らす東江キミさん(85)の母幸(さち)さんも機織り上手だった。母屋の一室に4段ほどの蚕棚を作り、養蚕から糸繰り、糸染め、機織りまですべてやっていた。東江さんは「蚕が小さいときは桑の葉を小さく切って与えた」と語る。沖縄で数え13歳で行う「十三祝い」で、母が自分のために着物を作ってくれたのが良い思い出だ。

 伊是名村誌に、朝平さんの養蚕指導について書かれている。「その深い造詣や経験をフルに生かして村民の指導開発に献身的努力をしたのである」

荒波の難所を小舟で渡り

 沖縄県最北端の伊平屋島(いへやじま)と伊是名島の間を往来するのに、かつては、「サバニ」と呼ばれる漁船で渡った。伊平屋島の沖合には「伊平屋渡(いひゃど)」と呼ばれる荒海があり、沖縄では昔から「渡りがたい恋路」に例えられるほどの難所だったそうだ。

 明治時代に伊是名島の駐在巡査となった川平朝平さんの長男・朝申(ちょうしん)さんが1940年、民俗調査で両島を訪れたときも伊平屋島から伊是名島に向かうのにサバニで渡った。

 朝申さんがその体験を書き残している。「伊平屋渡といわれる渦潮を通過する時の機敏な老人の漕法(そうほう)は神技そのものだった。城間老人の櫂(かい)を渦の中にぐんと突っこみ、ぐいと引き上げるたくましさは、真にドランの彫刻を見ているような気がした」。ドランは、20世紀に活躍したフランス人画家のアンドレ・ドランのことだろう。ドランは彫刻も手がけた。サバニで両島間約5キロを1時間ほどで渡った。伊是名島では朝申さんがサバニで荒海を渡ってきたと聞いた教諭が「勇敢ですね」と驚いたそうだ。

古民家が残る美しい集落

 さて、…

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