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花谷寿人の体温計

政治や社会の出来事が人々に与える影響を「体温」として読み解く、花谷寿人論説委員のコラム。

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花谷寿人の体温計

鍋の底の石

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 あの夜、命拾いした荒物屋の男は悲しみに暮れ、見失った妻と幼いわが子を捜し続けた。

 76年前の3月10日、約10万人が亡くなった東京大空襲。男は女と出会う。女は夫と生き別れ、幼子を抱えていた。炊き出しのおむすびを一緒に食べ、その縁で結ばれる。空襲を生き延びた永井荷風の短編「にぎり飯」である。

 女が言う。「お互いにあきらめをつけるより仕様がありませんねぇ。わたし達ばっかりじゃないんですから」

 男「そうですとも。あなたの方が子供さんが助かっただけでも、どんな仕合せだか知れませんよ。わたしに比べれば……」

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