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ああ、コロナブルー

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「人間さんよ、このままでいいのかい?」高畑勲監督も通った「ポラン書房」2月で閉店

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「ずっと二人三脚でやってきました。いまは、もう、どうしようもないことはどうしようもないんだという心境ですよ」と石田恭介さん(左)と妻の智世子さん=東京都練馬区で、鈴木琢磨撮影
「ずっと二人三脚でやってきました。いまは、もう、どうしようもないことはどうしようもないんだという心境ですよ」と石田恭介さん(左)と妻の智世子さん=東京都練馬区で、鈴木琢磨撮影

 在宅勤務の味けなさは会社の帰り道、ちょっと一杯がかなわなくなったこと、それにも増して古本屋めぐりができなくなったことだ。なにせ毎日新聞東京本社は世界に冠たる古書街、神田神保町のすぐそば、ヒマを見つけてはぶらぶらしていた。そんな「神保町ロス」を埋めるべく散歩がてらに通いだした西武池袋線大泉学園駅そばの「ポラン書房」は、品ぞろえよく、目利きのご主人がいる、わが意を得たりの古本屋だった。過去形にしたのは2月7日をもって閉店するからだ。ネット通販は続くが、絵本から抜け出たような看板に吸い込まれ、本を探す楽しみが失われるのはさみしい。

 さぞ悔しいに違いないが、足を運ぶとご主人の石田恭介さん(73)、淡々と本を棚に補充していた。「正月の年賀状で閉店をお知らせしましたが、みなさん、残念だ、まちの文化の灯が消える、とまで惜しんでいただいて。僕は返す言葉が見つからない。必ずもう一度来ますから、と言ってくださるお客さまのために新ネタ、珍しい本を入れておこうと」。店舗をたたむ決心をしたのは昨夏だった。「コロナで1カ月半ほど休みましたが、再開後も客足は戻らず、売り上げが落ち込んだまま。家賃の支払いが困難になり、『多少なりとも値下げを』とオーナーに相談しましたが、のれんに腕押しの状態で」。パソコンに向かっていた妻の智世子さん(75)がぽつりと一言こぼす。「いい本が出なくなった。それも致命的」

 二人三脚での古本商いはかれこれ37年になる。二人が出会ったのは学園紛争の華やかなりし時代、智世子さんは埼玉大教養学部の1期生、恭介さんは2期生だった。一緒に「埼玉大ベ平連」を結成した仲らしい。「ベトナムに平和を!って作家の小田実さんらの提唱した市民運動『ベ平連』に共鳴してね。僕は大学を中退し、学習塾をやるようになるんですが、大手の進学塾に押され、もう古本屋しかないかってね。古本屋のおやじへのあこがれはありました」。埼玉県和光市で5坪の物件から始めた。「東京に出ようとまず大泉学園に移り、さらにこの駅近くに店を構えたのは僕が還暦を迎える直前でした。屋号は、チャランポランな生き方をしてきたからってことと、大好きな宮沢賢治の童話に出てくる『ポランの広場』からとりました」

 ある日、朴訥(ぼくとつ)な感じの初老の男性が入ってきた。…

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