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被災地に癒やしの調べ

東日本大震災の被災地で、被災した人々を音楽で力づけるさまざまな公演やイベント、携わる音楽家の思いなどを紹介します。

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ウィーン・フィルの青少年プログラム、被災地を対象に限定公開

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「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2020」の会期中、青少年プログラムを行うゲルギエフと同フィルのメンバー=サントリーホールで2020年11月13日 写真提供:サントリーホール
「ウィーン・フィルハーモニー ウィーク イン ジャパン2020」の会期中、青少年プログラムを行うゲルギエフと同フィルのメンバー=サントリーホールで2020年11月13日 写真提供:サントリーホール

 去る1月9日、昨秋に来日したウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の青少年プログラム(11月13日)の上映会が仙台ジュニアオーケストラを対象に行われた。同フィルは震災後、継続的に東北を訪れ、このジュニア・オケでも指導を行うなど親交を温めている。しかしクラシックナビでも既報のように、今回はコロナ禍ゆえ、さまざまな制限を伴う中での来日となった。そのため被災地訪問はかなわず直接の指導には至らなかったが、ウィーン・フィル側がジュニア・オケをおもんぱかり、今回の上映会が実現。上映会に集まった二十数人のメンバーやOBらは、ヴァレリー・ゲルギエフと同フィルによる演奏(リヒャルト・シュトラウス「英雄の生涯」)に熱心に聴き入っていた。

 ウィーン・フィルの招へい元であるサントリーホールは1999年から招へいを行っており、密接な関係を築いてきた。それは単なる公演ツアーの枠にとどまらない。期間中はマスタークラスや中高生を対象とした青少年プログラム、リハーサルの公開と幅広く門戸を開いており、まもなく179年を迎える歴史に裏打ちされた同フィルの魅力や音楽の楽しみを伝え、日本の音楽文化へ寄与している。

 また、こうした姿勢は東日本大震災後、2012年には「ウィーン・フィル&サントリー音楽復興基金」の設立へとつながり、楽団員が毎年被災地を訪れたり被災地の音楽団体への助成を行ったりするなど、長期にわたり音楽支援活動を継続してきた。2012年から19年までで、東日本大震災や熊本地震の被災地を訪れたウィーン・フィルのメンバーはのべ91人、また指導を受けた子どもたちは840人、聴衆は1万3500人にものぼる。この基金は双方が1億円ずつ拠出しており、その金額の大きさからも名目だけでなく、いかに実質的かつ継続的な活動を視野に入れてきたのかわかる。

 例えば2013年には現・楽団長のダニエル・フロシャウアー(ヴァイオリン)やディーター・フルーリー(フルート)、ゲアハルト・イーベラー(チェロ)らが岩手県花巻市を訪れ、震災を機にアジア各国から楽器を寄贈され結成へと至った「金星少年少女オーケストラ」のコンサートで交流を行った(3月23日、花巻市石鳥谷生涯学習会館大ホール)。言うまでもないが、彼らは世界屈指のオーケストラの一員で、日ごろは音響豊かなホールを舞台にしている。それゆえに、彼らが結成1年ほどの小中学生らのオーケストラとともに地方の一施設で演奏を行う様子は大変心温まるもので、いかに彼らが被災地へ心を寄せているのか、その本気度が見えるようだった。

仙台市内で行われた仙台ジュニア・オケのメンバーやOBに向けた上映会 写真提供:サントリーホール
仙台市内で行われた仙台ジュニア・オケのメンバーやOBに向けた上映会 写真提供:サントリーホール

 また2016年にはその一環として、サントリーホールで岩手・宮城・福島のこどもたちとウィーン・フィルとの大舞台が実現した。指揮は山田和樹が務め、フロシャウアーやフルーリーら同フィルのメンバー17人と岩手県立宮古高等学校吹奏楽部、仙台ジュニア・オケ他のこどもたちが共演している。じつはこの時参加していたジュニア・オケの団員のひとりが、今回仙台で行われた上映会にも参加していた。ジュニア・オケではパーカッションを担当していた現在大学3年生の小林さんは、上映会への感謝の気持ちとともに、「ウィーン・フィルの方々との交流がきっかけで、第2外国語でドイツ語を選択することにしました。ウィーン・フィルを現地で聴きたいですし、またグローバル化が進む中でこの経験を役立てたいです」と交流が世界に目を向けるきっかけになったことを話してくれた。

 なお、今回の青少年プログラムの映像は岩手、宮城、福島、熊本の被災4県の中学校と高等学校へも限定公開されており、募集に対し、およそ30校から応募があった。(正木裕美)

筆者プロフィル

 正木裕美(まさき・ひろみ) クラシック音楽の総合情報誌「音楽の友」編集部勤務を経て、現在は仙台市在住。「音楽の友」編集部では、全国各地の音楽祭を訪れるなどフットワークを生かした取材に積極的に取り組んだ。東日本大震災以後、仙台に移り住み、同市を拠点に東北各地の音楽状況や音楽による復興支援活動などの取材、CD解説やインタビュー記事の執筆などを行う。

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