政府・自民の「人文・社会科学系は多過ぎ」論は正しいか 「科学技術政策と矛盾」指摘も

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日本学術会議=東京都港区六本木で小座野容斉撮影
日本学術会議=東京都港区六本木で小座野容斉撮影

 菅義偉首相による任命拒否問題を発端にした日本学術会議のあり方改革を巡り、政府・自民党は学術会議に人文・社会科学系の会員比率を見直すよう求めている。実際の研究者総数の割合を考慮すると多すぎる、というのが理由のようだが、文系への「圧力」とも受け取れる。こうした要請は、政府が進める科学技術政策と矛盾するとの声も上がっている。【岩崎歩/科学環境部】

核ごみ見直しの提言に「社会学の視点」

 学術会議は第1部(人文・社会科学)、第2部(生命科学)、第3部(理学・工学)の三つの部で構成され、定員はそれぞれ70人。各部には専門分野別に10の分野別委員会がある。このほか、社会が抱える重要な課題を議論するため、三つの部の枠を超えた異なる分野の会員で構成する「課題別委員会」などを設置している。

 科学政策に対する政府への勧告や提言を取りまとめる際には、テーマに応じて関係する分野の研究者が集まって議論を交わす。時には、政府の意に沿わない姿勢も辞さなかった。

 例えば、2011年の東日本大震災や東京電力福島第1原発事故を踏まえて、原子力政策の検証を行い、15年には高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分を巡る政策の抜本的見直しを迫った提言をまとめた。物理学や地質学に加え、社会学などの会員らで構成する委員会で、核のごみの保管施設を確保しないままの原発再稼働は「将来世代に対する無責任を意味する」と批判した。原発に依拠したエネルギー政策を進めていた政府にとっては不都合な指摘だったが、安全神話に一石を投じた。

 この提言をまとめた委員会の委員長だった今田高俊・東京工業大名誉教授(社会学)は「安全神話が震災、原発事故で崩れた。そこへの反省もあり、リスクの高い原子力という科学技術に対し、リスク社会学の視点からもきちんと考え、原発推進か反対かの二極論を超えた議論を社会的に進めていく必要性があった」と振り返る。17年には、戦争・軍事目的の研究を拒否した1950年と67年の声明を継承する「軍事的安全保障研究に関する声明」を出し、大学などの研究機関に、軍事関連の研究について適切性を技術面や倫理面から審査する制度を設けるよう求めた。

世界潮流に逆行する自民党の要求

 任命拒否問題発覚後に自民党が設置した、学術会議のあり方を考えるプロジェクトチーム(PT)は20年12月、学術会議が政府から「独立」することなどを求める提言をまとめた。そこでは「実際の科学者総数は人文・社会科学11・5%、生命科学19・9%、理学・工学68・6%」とした上で、会員構成は「総数の割合に比し適切であるかは再検討されるべきである」と指摘。人文・社会の会員を減らすことも暗に求めた。これを受け、井上信治・科学技術担当相も同月、梶田隆章・学術会議会長に会員構成の比率の見直しを検討するよう要請した。

 自民PTが提言で根拠にした文部科学省の「文部科学統計令和2年版」を見ると、19年3月末時点の国内の研究者総数は89万9052人。このうち、例えば理学・工学は61万6984人で、「人文、社会科学、その他の計」は10万3339人と確かに、理学・工学の方が多い。ただ、学術会議はこの総数だけをもって会員比率の見直し議論が進むことに慎重な姿勢を示す。

 自民PTの指摘や井上氏の要請について、小林傳司・学術会議第1部幹事は…

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