図書館のサービスが、社会のデジタル化に呼応して拡大されることになりそうだ。所蔵する書籍や雑誌をスマートフォンやパソコンで部分的に閲覧できるようにするという。
文化審議会の小委員会が報告書をまとめた。政府は今国会で著作権法の改正を目指す。
図書館では現在、調査研究を目的とする利用者を対象に、書籍や雑誌の一部分のコピーを有料で提供している。遠隔地の場合は郵送になる。ただ、サービスを実施していない図書館もある。
ファクスやメールによる送信は認められていない。かねて利用者のニーズに十分に応えていないとの指摘があった。
コロナ下の緊急事態宣言で、多くの図書館が休館し、書籍資料の閲覧や貸し出しが困難になった。在宅勤務などリモートワークや授業のオンライン化が進むなか、電子データでの提供を要望する声が研究者らから上がっていた。
遠隔地の居住者や、身体的な事情で図書館に行くのが困難な人にとっても利便性が向上することになる。利用者にとっては歓迎すべきことだろう。
だが、データの送信は、従来と同じく調査研究目的や、図書資料の「一部分」ではあっても、著作権の侵害につながる恐れがある。
電子出版市場と競合することになり、出版文化にとってもマイナスになりかねない。報告書は権利者が被る不利益を補償すべきだと指摘している。
データの送信方法や、権利を不当に害しないための送信の分量といった運用は、今後作成するガイドラインや関係者協議に委ねられる方向だ。
送信されたデータの拡散や、営利目的で「海賊版」を作成するなどの悪用を防止することも課題だ。著作権保護について利用者の意識を高める必要があろう。
全国の自治体には3000を超える公共図書館がある。地域の知が集積する社会インフラであり、「知る自由」を担保する役割も担っている。
サービスの拡充にあたっては、市民の利便性向上と権利保護のバランスを取ることが欠かせない。
デジタル化時代の図書館のあるべき姿を探りたい。