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常夏通信

その80 戦没者遺骨の戦後史(26) 遺品なし鑑定スタート 初年度の硫黄島で身元判明

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大坂山砲台に残る旧日本軍の砲身には、当時の不発弾が突き刺さったままになっている=硫黄島で2011年6月7日午後4時18分、岩下幸一郎撮影
大坂山砲台に残る旧日本軍の砲身には、当時の不発弾が突き刺さったままになっている=硫黄島で2011年6月7日午後4時18分、岩下幸一郎撮影

 2週間ほど前の1月下旬。私はその情報を得て、興奮してしまった。「遺品なしの遺骨の身元が分かった? 硫黄島で!?」と。さらに「思った通りだ。遺族の希望が増す。毎日新聞が繰り返し主張してきたことを政府が実行したとたん、成果が出たじゃないか。しかも他社は気がついていないはず。今書けば、特ダネだぜ」と、興奮は正月快晴の凧(たこ)のように、天井知らずに上がった。

遺品なしの身元特定 硫黄島でも

 現状、戦没者遺骨の身元を科学的に特定するための唯一の手段はDNA鑑定だ。遺骨から採取したDNAの情報を遺族から採取したそれと照合して身元を特定する。2003年度から始まったのだが、所管の厚生労働省は、鑑定を行う上で厳しい条件をもうけた。すなわち遺骨の身元推定につながる遺品、たとえば印鑑や記名のある遺留物や埋葬記録がある場合に限って鑑定する、ということだ。

 しかし、激戦地でそうした資料が遺骨とともに見つかることは極めてまれだ。だからほとんどの遺骨は、鑑定されないままに身元不明、引き取り手のない「無縁仏」になってしまう。

 「8月ジャーナリズム」=戦争報道を一年中行っている常夏記者である私は、「遺品があろうがなかろうが、技術的に可能ならば遺骨からDNAを採取し、遺族に鑑定を呼びかけるべきだ」と繰り返し主張してきた。そして我らが日本政府は20年度、つまり今年度になってようやく硫黄島での「遺品縛り」をはずし、部隊記録などである程度、戦没者の身元を推定できる場合は、DNA鑑定を行うこととした。その方針転換をしたとたん遺骨の身元が分かった、との情報だった。

国会で明らかになった画期的成果

 「硫黄島で、遺品なしで遺骨の身元特定」の特ダネを放つべく、裏付けの取材を進めた。確度は相当高いと感じたが、100%の確信には至らず、迷ったあげく見送った。間違いは許されない。そして、私がつかんだ情報が正しかったことが分かったのは、1月27日に開かれた参院の予算委員会だった。

 白真勲議員(立憲民主党)が、硫黄島での遺品なしのDNA鑑定について結果を問うた。以前からこの問題で政府の姿勢をただしてきた議員である。

 白議員「19年3月に当委員会で質問した、沖縄以外の、たとえば硫黄島などの遺品なしのDNA鑑定、これについてはどうでしょうか」

 田村憲久厚労相「このDNA鑑定ですけれども、公募で今でもやっておりまして、沖縄でスタート、今、硫黄島とキリバス共和国ギルバート諸島のタラワ環礁、これが令和2年、昨年ですね、これもあらたに加わったことで、今実施をいたしております。キリバス共和国、ご遺骨2柱、それから硫黄島のご遺骨が2柱、この4柱が身元が特定されたところであります」

 白議員「これ、遺留品がない中でのDNA鑑定だけで判明した国内初めてのケースです。これ大変なことだと思います。頑張ったみなさんに敬意を表したいと思います」

 この問答を聞いていて私は思った。「2年かかって、ようやくここまで来た。特ダネにはならなかったけれど、大きな一歩だ。遺品なし鑑定をもっと広げるきっかけになる」

 「本当に必要なことは、いつでも何度でもどこででも」が常夏記者のモットーである。本連載ですでに書いたことだが、「硫黄島で2体の身元特定」の重要さを確認する上で必要なので、「遺品なし」の戦没者遺骨でもDNA鑑定を始めた経緯をもう一度振り返りたい。

 18年、私は真宗大谷派(東本願寺)の勉強会で講師を依頼された。そこで同派の近藤恵美子さんから、祖父の近藤龍雄さんが硫黄島で戦死したことを教えてもらった。私は恵美子さんに、遺骨のDNA鑑定を厚労省に依頼することを勧めた。しかし厚労省は、「遺品がない」ことを理由にこれを拒んだ。

 激戦地で遺骨収容や調査に関わった人ならば、「遺品縛り」がいかにハードルの高い条件であるかが分かるだろう。私は10年…

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