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東日本大震災

2011年3月11日に発生した東日本大震災。復興の様子や課題、人々の移ろいを取り上げます。

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今だから書く、小林多喜二、横浜事件--柳広司さん新刊「アンブレイカブル」

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柳広司さんの新刊「アンブレイカブル」
柳広司さんの新刊「アンブレイカブル」

 「作家は時代の空気を吸って物語を作る」

 だとするなら、本書を生み出した空気はどのようなものだろう。スパイ小説「ジョーカー・ゲーム」などで知られる柳広司さんが、新刊「アンブレイカブル」(KADOKAWA)で描いたのは戦前・戦中の日本。軍靴の音が響く中、治安維持法で歴史の闇に消えた人々の姿だ。

 1925年に成立した治安維持法は、革命を目指す共産主義者を取り締まるという当初の目的を超えて暴走し、終戦後に廃止されるまで多くの命を奪った。本書は「雲雀(ひばり)」「叛徒(はんと)」「虐殺」「矜恃(きょうじ)」の4編からなる連作短編集。それぞれ、プロレタリア文学の旗手・小林多喜二、反戦川柳作家・鶴彬(つるあきら)、「横浜事件」で弾圧された言論誌の編集者たち、哲学者・三木清を物語の中心に据えている。罪を仕立て上げようとする官憲と、信念を貫く表現者の心理戦が描かれる。

 「国家権力によるテロリズムで命を失った人々ですが、歴史の中では彼らこそが“敗れざる者”(アンブレイカブル)。ヒーローとして提示したかった」と柳さんは言う。「海外では今まさに同じ事態が進行している国がある。日本でも共謀罪法(2017年に施行された改正組織犯罪処罰法)が厳格に運用されれば、再びこうした社会が訪れるかもしれない。物語として、未来の出来事も記憶できるのが小説なんです」

小説は世界の見え方を変える

 「雲雀」では、小説「蟹(かに)工船」執筆に向けて取材を重ねる多喜二の姿が、労働者側の視点で描かれる。警察が治安維持法違反で多喜二を捕らえようとする中、取材を受けた谷勝巳は、多喜二の小説を通じて、自らの置かれた労働環境と社会構造を客観視し始める。

 <小説を読んで谷は、妙な話だが、自分が乗っている蟹工船がどんなところなのか初めてわかった気がした。(中略)蟹工船が如何(いか)に地獄なのか、それだけではなく、如何にして地獄なのか>

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