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住民による直接請求制度への信頼を揺るがしかねない深刻な事態である。
愛知県の大村秀章知事の解職請求(リコール)を目指した運動で、提出された署名の約8割が無効とみられる不正が判明した。
事実とすれば、民意の大規模な偽造と言える行為だ。県選挙管理委員会は、刑事告発も含めた対応を検討している。
リコール署名活動は、大村知事の解職を求めて行われ、美容外科院長の高須克弥氏が代表を務めた。解職の是非を問う住民投票を行うためには、約87万人の署名が必要だった。提出は約43万人分にとどまったため、リコール自体は不成立だった。
だが、署名に不正があったとの情報があり、県選管が調査した。その結果、署名の83%の36万人分が無効とみられると判断した。筆跡などから同じ人が何回も書いた疑いのある署名が、そのうち約9割に達した。選挙人名簿に登録のない署名も大量にみつかった。
署名活動は、芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展を巡る大村知事の対応を問題視した。知事と対立している河村たかし名古屋市長も全面支援した。
リコールは、首長と地方議員を住民が直接選ぶ二元代表制を補完するものだ。一定の署名があれば、住民投票で解職や議会解散の是非が判断される。総務省によると、130回以上の投票実施例がある。不成立に終わったとはいえ、こんな不正が繰り返されれば、制度への不信感を広げかねない。
高須氏は記者会見で「(不正を)指示も、黙認したこともない」と関与を全面的に否定している。運動の進め方などをさらに点検し、説明すべきだ。河村氏も、署名を後押ししてきた責任をもっと自覚する必要がある。
地方自治法は署名の偽造に罰則を設けている。県選管が刑事告発した場合、捜査当局が実態解明に乗り出すことになる。
今回の事態に関し、なりすまし署名を防ぐ対策など、制度面の見直しを求める声も聞かれる。
ただし、長年のリコールの実績に照らしても、特殊なケースだ。誰がなぜ、どのように不正に関与したのか。まずは、徹底的な原因究明が必要だ。